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 戸籍法49条2項1号の規定のうち出生の届出に係る届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載すべきものと定める部分と憲法14条1項

 平成25年9月26日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
戸籍法49条2項1号の規定のうち,出生の届出に係る届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載すべきものと定める部分は,憲法14条1項に違反しない。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/587/083587_hanrei.pdf

 

 第1 事案の概要
 1 本件は,上告人X1(「上告人父」)が,上告人X2(「上告人母」,上告人父と併せて「上告人父母」という。)との間の子である上告人X3(「上告人子」)に係る出生の届出をしたが,戸籍法49条2項1号所定の届書の記載事項である嫡出子又は嫡出でない子の別を記載しなかったため,世田谷区長(「区長」)により上記届出が受理されず,上告人子に係る戸籍及び住民票の記載がされなかったところ,上告人らが,同号の規定のうち届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載すべきものと定める部分(「本件規定」)は憲法14条1項に違反するものであるなどと主張して,被上告人国に対し本件規定を撤廃しない立法不作為の違法を理由に,被上告人世田谷区に対し上告人子に係る住民票の記載をしない不作為の違法を理由に,それぞれ国家賠償法1条1項に基づき慰謝料の支払を求める事案である。

なお,上告人らは,当審において他の請求等に係る上告を取り下げており,当審の審理判断の対象は上記の各請求に関する部分に限定されている。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1)ア 上告人父母は,平成11年以降,東京都世田谷区内で事実上の夫婦として共同生活をしている。上告人父母の間には,平成17年3月▲日,上告人子が出生し,上告人父は,これに先立つ同年2月24日,上告人母の本籍地である千葉県我孫子市の市長に上告人子に係る胎児認知の届出をして受理された。

 イ 上告人父は,平成17年4月11日,区長に対し,自らを届出人として上告人子に係る出生の届出(以下「本件届出」という。)をしたが,その届書中,嫡出子又は嫡出でない子の別を記載する欄を空欄のままとした。

区長は,上告人父に対しその不備の補正を求めたが拒否され,さらに,区長において認定した事項を記載した付せんを届書に貼付するという内部処理をして受理する方法を提案したものの,この提案も拒絶されたため,本件届出を受理しないこととした。

 ウ 上告人父は,平成17年5月19日,区長に対し,上告人子に係る住民票の記載を求める申出をしたが,区長は,本件届出が受理されていないことを理由に,上記記載をしない旨の応答をした。

 エ その後,出生の届出に係る届書に嫡出子又は嫡出でない子の別が記載されていない場合の取扱いにつき,平成22年3月24日付けで平成22年法務省民一第729号法務局民事行政部長及び地方法務局長宛て法務省民事局民事第一課長通知(「平成22年通知」)が発出され,

① 届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載するよう補正を求めても届出人がこれに応じない場合には,届書の「その他」欄に子の称すべき氏又は入籍すべき戸籍を明らかにする方法による補正を求め,

② 届出人がその補正の求めに応じない場合においても,届書,添付書類及び戸籍簿の記載との対照等によって補正すべき内容を認定することができるときは,当該届書の付せん又は余白に認定した内容を明らかにした上で,当該届出を受理する旨を,各法務局及び地方法務局の管下の支局長及び管内の市町村長に周知するものとされた。

 オ 平成22年通知の発出後も,上告人子の出生に係る届出義務者(戸籍法52条2項)である上告人母からは,上告人子に係る出生の届出はされなかった。

 カ 上告人らは,平成23年3月8日,本件訴えを提起した。
 本件上告の提起後,区長は,上告人母に対し,平成24年11月22日,戸籍法44条1項に基づき上告人子に係る出生の届出をするよう催告し,同年12月7日,同条2項に基づき再度の催告をしたが,所定の各期間内に上告人母から上告人子に係る出生の届出はされなかった。そこで,区長は,同月25日,同条3項において準用される同法24条3項に基づき,我孫子市長に対し,上告人子の出生に係る届出義務者による届出がされていない旨の通知をしたところ,同市長は,同法44条3項において準用される同法24条2項に基づき,職権により上告人子に係る戸籍の記載をした。これに伴い,同市長が区長に対し住民基本台帳法9条2項に基づく通知をしたため,区長は,平成25年1月21日,同法施行令12条2項1号の規定により上告人子に係る住民票の記載をした。
 これらの措置を受けて,上告人らは,上記1のとおり,本件訴えのうち,上告人子に係る住民票の記載の義務付けを求める請求等に係る上告を取り下げた。

 (2) 戸籍法は,出生の届出に係る届書に記載すべき事項を定めており(29条,49条2項),その記載を欠く届出は瑕疵のあるものとなる一方,特に重要であると認める事項の記載を欠くものでない限り,その届出を受理することはできるものとされている(34条2項参照)。上記(1)エの平成22年通知は,このような戸籍法の定めの下で,出生の届出に係る届書の記載事項のうち嫡出子又は嫡出でない子の別が記載されていない場合における届出の受理に関する運用の在り方について関係機関に周知するために発出されたものである。

また,戸籍法は,44条1項及び2項の催告をしても届出がされない場合及び上記の催告をすることができない場合に,市町村長が管轄法務局又は地方法務局の長の許可を得て職権により戸籍の記載をすることができるとしている(同条3項,24条2項)。上記(1)カの我孫子市長の職権による上告人子に係る戸籍の記載は,上記の規定に基づいてされたものである。

 第2 上告代理人の上告理由について

 1 上告理由のうち本件規定が憲法14条1項に違反する旨をいう部分について

 (1) 論旨は,出生の届出に係る届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載すべきものと定める本件規定は,婚外子を不当に差別するものとして憲法14条1項に違反する旨をいうものである。

 (2) 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,不合理な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきことは,当裁判所大法廷判決の示すとおりである(最高裁昭和39年5月27日大法廷判決)。

出生の届出は,子の出生の事実を報告するものであって,その届出によって身分関係の発生等の法的効果を生じさせるものではなく,出生した子が嫡出子又は嫡出でない子のいずれであるか,また,嫡出でない子である場合にいかなる身分関係上の地位に置かれるかは,民法の親子関係の規定によって決せられるものである。

そして,民法は,婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによってその効力を生ずるものとして法律婚主義を採り(739条1項),これを前提として,父母の婚姻関係の有無によって,法律上の父子関係など子の身分関係について異なる規律を定めている。

すなわち,民法は,嫡出子については,婚姻中の妻の懐胎の事実から当然に夫との父子関係が推定されるものとして嫡出推定の制度(772条)を採用し,父母の氏を称する(790条1項)などとする一方で,嫡出でない子については,認知によって父子関係が発生するものとして認知制度を採用し(779条,787条),母の氏を称する(790条2項)などとしている。

また,戸籍法は,戸籍の編製について一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに編製するものとしている(6条)ところ,原則として,嫡出子については父母の戸籍に入るものとし(18条1項),嫡出でない子については母の戸籍に入るものとする(同条2項)などとしている。

このように,民法及び戸籍法において法律上の父子関係等や子に係る戸籍上の取扱いについて定められている規律が父母の婚姻関係の有無によって異なるのは,法律婚主義の制度の下における身分関係上の差異及びこれを前提とする戸籍処理上の差異であって,本件規定は,上記のような身分関係上及び戸籍処理上の差異を踏まえ,戸籍事務を管掌する市町村長の事務処理の便宜に資するものとして,出生の届出に係る届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載すべきことを定めているにとどまる。

そして,届書にこれが記載されない場合,当該届出に係る子が嫡出子又は嫡出でない子のいずれであっても,その記載の欠缺により届出が不受理の理由となり得る瑕疵のあるものとなる一方で,前記第1の2(2)のとおり届出の受理や職権による戸籍の記載も可能である。

以上に鑑みると,本件規定それ自体によって,嫡出でない子について嫡出子との間で子又はその父母の法的地位に差異がもたらされるものとはいえない。

また,戸籍法が届書の開示については戸籍の開示よりも厳格な要件を定めていること(48条2項,10条,10条の2)に照らせば,出生の届出に係る届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載することにより,その内容が第三者との関係においてより容易に知られ得る状態に置かれることとなるものともいえない。

なお,当該届出に係る子が嫡出子又は嫡出でない子のいずれであるかは市町村長において戸籍簿の記載との対照等の方法によっても知り得るものであり(前記第1の2(1)エ②参照),届書に嫡出子又は嫡出でない子の別を記載することを届出人に義務付けることが,市町村長の事務処理上不可欠の要請とまではいえないとしても,少なくともその事務処理の便宜に資するものであることは否定し難く,およそ合理性を欠くものということはできない。

所論は,本件規定において「嫡出でない子」という文言が用いられていること自体が婚外子に対する不合理な差別的取扱いであるともいうが,民法及び戸籍法において「嫡出でない子」という用語は法律上の婚姻関係にない男女の間に出生した子を意味するものとして用いられているものであり,所論は法令上のかかる用語についてその表現の当否を論ずるに帰するものであって,採用することができない。
 以上によれば,本件規定は,嫡出でない子について嫡出子との関係で不合理な差別的取扱いを定めたものとはいえず,憲法14条1項に違反するものではない。
 以上は,前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。原審の判断は,これと同旨をいうものとして是認することができ,論旨は採用することができない。