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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づき異なる目的物に対し更に仮差押命令の申立てをすることの許否

 平成15年1月31日最高裁判所第二小法廷決定

裁判要旨    
特定の目的物について既に仮差押命令を得た債権者は,これと異なる目的物について更に仮差押えをしなければ,金銭債権の完全な弁済を受けるに足りる強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき,又はその強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときには,既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づき,異なる目的物に対し,更に仮差押命令の申立てをすることができる。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/378/052378_hanrei.pdf

 

 1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。

 (1) 抗告人は,甲株式会社との間の平成4年7月1日付け建物賃貸借契約に基づき,同社に対し,敷金3000万円を差し入れた。相手方は,同日,同社の敷金返還債務を連帯保証した。抗告人は,平成12年2月25日,契約の終了に伴い上記建物を明け渡した。
 抗告人は,平成13年9月8日,相手方に対する3000万円の上記連帯保証債務履行請求権を被保全債権として,原々決定物件目録記載3の土地及び同目録記載4の建物につき,仮差押命令の申立てをし,同月17日,仮差押命令が発せられ,その執行がされた。

 (2) 本件は,抗告人が,上記仮差押命令と同一の請求権を被保全債権として,同目録記載2の土地につき,仮差押命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。

 2 原審は,概要次のとおり判示して,抗告人の仮差押命令の申立てを却下すべきものとした。

 (1) 仮差押命令の効力が保有されている場合に,これにより既に保全された債権と同一の債権を被保全債権とし,異なる目的物に対して新たな仮差押命令の申立てをすることは,同一の被保全債権及び同一の仮差押命令の必要性に基づく申立ての当否について更なる審理を求めることになるので,裁判一般の基本原理である広い意味での一事不再理の原則により,権利保護の要件を欠く。

 (2) 本件申立ては,既に発せられ,いまだ効力を有している状態にある仮差押命令と同一の被保全債権及び同一の仮差押命令の必要性に基づくものであって,許されない。

 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 仮差押えは,金銭の支払を目的とする債権について,強制執行をすることができなくなるおそれがあり,又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるという仮差押命令の必要性が存するときに,債務者の所有する財産の処分を禁止することにより本案の権利に基づく強制執行保全する制度である(民事保全法1条,20条1項参照)。仮差押命令の申立てにおいては,被保全債権及び債務者の所有する特定の物(動産については,特定を要しない。)についての仮差押命令の必要性が審理の対象となるところ(同法13条,20条,21条),ある被保全債権に基づく仮差押命令が発せられた後でも,異なる目的物についての強制執行保全しなければ当該債権の完全な弁済を得ることができないとして仮差押命令の必要性が認められるときは,既に発せられた仮差押命令の必要性とは異なる必要性が存在するというべきであるから,当該目的物についての仮差押命令の申立てにつき権利保護の要件を欠くものではない。

 (2) したがって,【要旨】特定の目的物について既に仮差押命令を得た債権者は,これと異なる目的物について更に仮差押えをしなければ,金銭債権の完全な弁済を受けるに足りる強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき,又はそ強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときには,既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づき,異なる目的物に対し,更に仮差押命令の申立てをすることができる。 

このように解しても,裁判所が無用な判断を行うことにはならず,また,債権者が過剰な満足を受けることにもならない。

なお,先後両仮差押命令に定められる仮差押解放金の額の合計が被保全債権の額を超えることとなる場合にも,仮差押解放金の供託により仮差押えの執行の停止又は取消しを求めようとする債務者に被保全債権の額を超える仮差押解放金の供託をさせることがないような扱いをすることが可能であり,上記の場合が生ずるとしても,異なる目的物に対し更に仮差押命令を発することの障害となるものではない。

 (3) これを本件についてみるに,本件申立ては,既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づくものであるが,抗告人は,申立てに係る土地につき更に仮差押えをしなければ,上記債権の完全な弁済を受けるに足りる強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき,又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときには,更に仮差押命令の申立てをすることができるというべきであり,論旨は理由がある。

 4 以上によれば,これと異なる見解に立って,一事不再理の原則を理由に本件申立てを却下すべきものとした原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したがって,原決定を破棄し,原々決定を取り消し,更に審理を尽くさせるため,本件を原々審に差し戻すこととする。

 

Subsection 2 Order for Provisional Seizure
(Necessity of Order for Provisional Seizure)
Article 20(1)An order for provisional seizure may be issued when it is likely that a compulsory execution regarding a claim for payment of money will not be possible, or it is likely that significant difficulties will arise in implementing compulsory execution.
(2)An order for provisional seizure may be issued even when a claim provided for in the preceding paragraph is subject to a condition or a time limit.
(Object of Order for Provisional Seizure)
Article 21An order for provisional seizure must be issued with regard to a specific property; provided, however, that an order for provisional seizure of movables may be issued without the subject matter being specified.
(Money for Release from Provisional Seizure)
Article 22(1)An order for provisional seizure must specify the amount of money that the obligor must deposit in order to obtain a stay of execution of a provisional seizure or in order to have a provisional seizure that has already been executed revoked.
(2)A deposit of money set forth in the preceding paragraph must be made with an official depository within the jurisdictional district of the district court that has jurisdiction over the location of the court that has issued the order for provisional seizure or the court that executes the provisional remedy.