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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

担保不動産競売事件の期間入札において,執行官が,最高の価額で買受けの申出をした入札人の入札を誤って無効と判断し,他の者を最高価買受申出人と定めて開札期日を終了した場合に,執行裁判所等が執るべき措置

平成22年8月25日最高裁判所第一小法廷決定

裁判要旨    
1 担保不動産競売事件の期間入札において,執行官が,最高の価額で買受けの申出をした入札人の入札を誤って無効と判断し,他の者を最高価買受申出人と定めて開札期日を終了した場合には,執行裁判所は,誤って最高価買受申出人と定められた者に対する売却を不許可とした上で,当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日及び売却決定期日を定め,これを受けて執行官が再び開札期日を開き,最高価買受申出人を定め直すべきである。

2 担保不動産競売事件の期間入札において,自らが最高の価額で買受けの申出をしたにもかかわらず,執行官の誤りにより当該入札が無効と判断されて他の者が最高価買受申出人と定められたため,買受人となることができなかったことを主張する入札人は,この者が受けた売却許可決定に対し執行抗告をすることができる。

3 担保不動産競売事件の期間入札において,入札書を封入した封筒に記載された事件番号が,これと共に提出された入札保証金振込証明書に記載されたそれと一致しなくても,次の(1)〜(3)の事実関係の下では,当該入札が無効であるということはできない。

(1) 上記封筒に記載された開札期日の日時には,年の記載を除き,上記封筒に記載された事件番号と一致する事件番号の担保不動産競売事件の開札期日が指定されていた。

(2) 上記入札保証金振込証明書に記載された事件番号,物件番号及び開札期日は,いずれも上記(1)の担保不動産競売事件のそれと一致していた。

(3) 上記封筒に記載された事件番号に対応する担保不動産競売事件の開札期日が上記封筒に記載された開札期日又はこれに近接する日に指定されていたことはうかがわれない。
(1につき補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/628/080628_hanrei.pdf

 

1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。

(1) 甲府地方裁判所は,平成20年4月28日,原々決定別紙物件目録記載1,3ないし7の土地建物(「本件不動産」)を含む不動産につき,担保不動産競売の開始決定をした(同裁判所同年(ケ)第117号担保不動産競売事件。「本件競売事件」)。裁判所書記官は,本件不動産につき,期間入札の方法により執行官に売却を実施させることとし,入札期間を平成21年8月6日から同月13日まで,開札期日を同月20日午前10時と定めた。

(2) 相手方は,入札書を入れて封をした封筒(「本件封筒」)を執行官に提出して,上記入札期間内に入札(「本件入札」)をした。
本件封筒には,「開札期日平成21年8月20日午前10時」,「物件番号1,3~7」と記載されていたほか,本件競売事件の事件番号とは異なる「甲府地方裁判所平成21年(ケ)第117号」との記載があった。なお,相手方が本件封筒と共に提出した入札保証金振込証明書(「本件証明書」)には,本件競売事件の事件番号である「平成20年(ケ)第117号」との記載がされており,物件番号及び開札期日についても本件競売事件のそれと一致する記載がされていた。

(3) 執行官は,平成21年8月20日午前10時に開かれた本件競売事件の開札期日において,本件封筒に記載された事件番号が本件証明書に記載されたそれと一致しないことを理由に,本件封筒を開封しないまま,本件入札を無効と判断した。抗告人は入札価額を1900万0100円とする入札をしていたところ,執行官は,ほかに適法な入札はないものとして,抗告人を最高価買受申出人と定めた。
執行裁判所は,同月27日,抗告人に対し本件不動産を売却することを許可する旨の決定(原々決定)を言い渡した。

(4) 相手方は,平成21年9月2日,原々決定に対し執行抗告をした。相手方は,抗告の理由として,本件封筒に封入された入札書には入札価額として2250万円と記載されており,本件入札が最高の価額での入札であったにもかかわらず,執行官が誤ってこれを無効と判断した上,抗告人を最高価買受申出人と定めたのであるから,売却の手続に重大な誤りがあると主張した。

2 原審は,① 相手方は民事執行法(以下「法」という。)188条,74条1項に基づき執行抗告をすることができると解した上で,② 本件封筒を開封することなく,本件入札を無効と判断してされた本件不動産の売却の手続には重大な誤りがあり,法188条,71条7号所定の売却不許可事由があるとして,原々決定を取り消し,抗告人に対する売却を不許可とする旨の決定をした。

3 抗告代理人の抗告理由第2の1について

(1) 所論は,最高価買受申出人と定められなかった入札人が,自己が最高価買受申出人と定められるべきであったと主張してする執行抗告は,それが認められたとしても,新たな売却の手続が執られるだけで,上記入札人は再び買受けの申出をすることができるという事実上の利益しか有しないから,相手方は抗告の利益を有せず,執行抗告は不適法であるというのである。

(2) 担保不動産競売事件の期間入札において,執行官が,最高の価額で買受けの申出をした入札人の入札を誤って無効と判断し,他の者を最高価買受申出人と定めて開札期日を終了した場合,売却の手続に重大な誤りがあることは明らかである。

この場合,執行裁判所は,誤って最高価買受申出人と定められた者に対する売却を不許可とすることとなるが,その後は,改めて期間入札を実施するほかはなく,上記入札人は再び買受けの申出をすることができるにすぎないと解することは,最高価買受申出人と定められ売却許可決定を受けられるはずであった上記入札人の保護に欠けることになり,相当でない。

他方,執行官による上記の誤りがあるからといって,既に行われた売却の手続全体が瑕疵を帯びると解する理由はなく,当該瑕疵が治癒されれば当初の売却の手続を続行するのに何ら支障はない。

そうすると,上記の場合には,執行裁判所は,誤って最高価買受申出人と定められた者に対する売却を不許可とした上で,当初の入札までの手続を前提に改めて開札期日及び売却決定期日を定め,これを受けて執行官が再び開札期日を開き,最高価買受申出人を定め直すべきものと解するのが相当である。

このことは,当初の開札期日において開札されないまま無効と判断された入札があるため,当該入札が最高の価額での入札である可能性を否定することができない場合についても,同様である。

そして,執行裁判所は,再度の開札期日を経て最高価買受申出人と定められた入札人について,売却不許可事由がない限り,売却許可決定をすべきこととなる。

なお,法及び民事執行規則(「規則」)には,入札人に対し買受けの申出の保証を再度提供させることを予定した規定は置かれていないが,執行裁判所は,改めて開札期日を定めるに当たり,期限を定めて買受けの申出の保証を提供させ,執行官はその提供をした入札人の入札のみを有効なものと扱えば足りるのであるから,この点は上記のように解する妨げにはならない。

したがって,自らが最高の価額で買受けの申出をしたにもかかわらず,執行官の誤りにより当該入札が無効と判断されて他の者が最高価買受申出人と定められたため,買受人となることができなかったことを主張する入札人は,法188条,74条1項に基づき,この者が受けた売却許可決定に対し執行抗告をすることができるというべきである。

(3) これを本件についてみると,相手方は,自らが抗告人の入札額を上回る最高の価額で本件入札をしたにもかかわらず,執行官が誤ってこれを無効と判断した上,抗告人を最高価買受申出人と定めたため,抗告人に対し売却を許可する旨の原々決定がされ,これにより本件不動産を買い受けることができなかったと主張していることは前記1(4)のとおりであるから,相手方は,原々決定に対し執行抗告をすることができるというべきである。前記2①の原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。

4 同第2の2について

(1) 所論は,本件入札は,本件封筒に記載された事件番号と本件証明書に記載されたそれとが一致していないから,無効であるというのである。

(2) 規則173条1項,47条は,期間入札における入札は,入札書を入れて封をし,開札期日を記載した封筒を執行官に提出することによってするものと定めている。

規則が上記封筒に開札期日の記載を求めるのみで,事件番号や物件番号の記載を求めていないのは,開札期日の記載があれば当該封筒を開封すべき開札期日を特定することができるため,入札書の記載から判明する事件番号や物件番号については記載の必要がないからであると解される。

そうすると,当該封筒を開封すべき開札期日を特定することができるのであれば,当該封筒に記載された事件番号がその添付書類に記載されたそれと一致していないとしても,当該入札が無効であるということはできず,執行官は開札期日において当該封筒を開封することを要するものというべきである。

(3) これを本件についてみると,相手方が提出した本件封筒には,開札期日として「平成21年8月20日午前10時」と明記されていたところ,同日時には本件競売事件の開札期日が指定されており,その事件番号と本件封筒に記載されていたそれとは,年の記載を除き一致していたこと,本件証明書に記載された事件番号,物件番号及び開札期日は,いずれも本件競売事件のそれと一致していたことは,前記1のとおりであることに加え,本件封筒に記載されていた事件番号に対応する事件の開札期日が平成21年8月20日又はこれに近接する日に指定されていたことはうかがわれない。

以上の事情に照らすと,本件封筒を開封すべき開札期日は平成21年8月20日午前10時と特定することができるから,本件封筒に記載された事件番号が本件証明書に記載されたそれと一致しなくても,本件入札が無効であるということはできない。

しかるに,執行官は,本件入札を無効と判断した上で,抗告人を最高価買受申出人と定めたのであるから,本件不動産の売却の手続には重大な誤りがあり,法188条,71条7号所定の売却不許可事由があるというべきである。

これと同旨の前記2②の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 

 

In the period bidding for a collateral real estate auction, if the execution officer erroneously determines that the bid of the bidder who made an offer to purchase at the highest price is invalid, and ends the bid opening date by defining someone else as the highest bid purchaser, the execution court should deny the sale to the person erroneously defined as the highest bid purchaser. Then, the court should set a new bid opening date and a sale decision date based on the procedures of the initial bid. In response to this, the execution officer should reopen the bid opening date and redefine the highest bid purchaser.