最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

小規模個人再生において住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たり無異議債権の存否等を考慮することの可否

 平成29年12月19日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(民事再生法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができる。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/339/087339_hanrei.pdf

 

1 本件は,抗告人を再生債務者とする小規模個人再生(「本件再生手続」)における住宅資金特別条項を定めた再生計画について,民事再生法(「法」)202条2項4号の不認可事由の有無が争われた事案である。

2 記録によれば,本件の経緯等は,次のとおりである。

(1) 税理士である抗告人は,平成25年2月,顧客である相手方から債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟(「別件訴訟」)を提起された。

(2) 抗告人は,平成25年12月,その所有する土地建物について,抗告人の実弟であるAの抗告人に対する平成11年10月10日付け金銭消費貸借契約に基づく2000万円の貸付債権(「本件貸付債権」)を被担保債権とする抵当権を設定した旨の仮登記(「本件仮登記」)を経由した。なお,上記土地建物には,同土地建物についての住宅ローン債権(「本件住宅ローン債権」)を被担保債権とする順位1番の抵当権が設定され,その旨の登記が経由されていた。

(3) 別件訴訟の控訴審において,平成28年4月,抗告人に対し,相手方に約1160万円及び遅延損害金を支払うよう命ずる判決が言い渡され,同判決はその頃確定した(以下,同判決によって確定した損害賠償債権を「本件損害賠償債権」という。)。

(4) 抗告人は,平成28年8月26日,本件仮登記の抹消登記を経由した。

(5) 抗告人は,平成28年9月7日,東京地方裁判所に対し,本件再生手続に係る再生手続開始の申立てをし,同月20日,再生手続開始の決定を受けた。上記申立てに当たり抗告人が提出した債権者一覧表には,本件住宅ローン債権以外に,本件貸付債権及び本件損害賠償債権を含め,再生債権の額又は担保不足見込額の合計が約4027万円となる債権が記載されていた。

(6) 相手方は,債権届出期間内に,再生債権の額を約1345万円として本件損害賠償債権の届出をした。Aは,上記届出期間内に本件貸付債権の届出及びこれを有しない旨の届出をせず,法225条により,上記債権者一覧表の記載内容と同一の内容で再生債権の届出をしたものとみなされた。

(7) 本件貸付債権及び本件損害賠償債権について一般異議申述期間を経過するまでに抗告人及び届出再生債権者から異議が述べられなかったことから,A及び相手方は,法230条8項により,届出再生債権の額に応じてそれぞれ議決権を行使することができることとされた。
本件再生手続における議決権者は相手方及びAを含む10名であり,議決権者の議決権の総額は約3705万円であった。

(8) 抗告人は,平成28年12月19日,再生裁判所に対し,本件住宅ローン債権につき住宅資金特別条項を定めた上で,本件住宅ローン債権を除く再生債権につき90%の免除を受け,これを分割返済する旨の再生計画案(「本件再生計画案」)を提出した。

(9) 再生裁判所は,平成28年12月27日,本件再生計画案を決議に付する決定をし,相手方のみが同裁判所が定めた期間内に本件再生計画案に同意しない旨の回答をした。本件再生計画案は,同意しない旨を回答した議決権者の数が議決権者総数の半数に満たず,かつ,当該議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないとして,法230条6項により可決されたものとみなされた。

(10) 原々審は,平成29年1月19日,上記(9)のとおり本件再生計画案が可決された再生計画(以下「本件再生計画」という。)につき認可の決定(原々決定)をした。相手方は,原々決定に対し,即時抗告をした。

(11) 抗告人は,原審において本件貸付債権の裏付けとなる資料の提出を求められたが,借用証や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出しなかった。

3 原審は,抗告人が実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどの信義則に反する行為により本件再生計画案を可決させた疑いが存するので,本件貸付債権の存否を含め信義則に反する行為の有無につき調査を尽くす必要があるとして,原々決定を取り消し,本件を原々審に差し戻した。

4 所論は,本件貸付債権は法230条8項にいう無異議債権であるから,本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては本件貸付債権が存在することを前提に判断することを要し,本件の事実関係の下において,本件貸付債権の存否について調査をする必要があるとして原々決定を取り消した原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある旨をいうものである。

5 法231条が,小規模個人再生において,再生計画案が可決された場合になお,再生裁判所の認可の決定を要するものとし,再生裁判所は一定の場合に不認可の決定をすることとした趣旨は,再生計画が,再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという法の目的(法1条)を達成するに適しているかどうかを,再生裁判所に改めて審査させ,その際,後見的な見地から少数債権者の保護を図り,ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとするものであると解される。

そうすると,小規模個人再生における再生計画案が住宅資金特別条項を定めたものである場合に適用される法202条2項4号所定の不認可事由である「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当である(最高裁平成20年3月13日第一小法廷決定)。

そして,上記の趣旨によれば,小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当である。

6 これを本件についてみると,抗告人は,本件再生手続に係る再生手続開始の申立てに当たり,債権者一覧表に本件貸付債権を記載して提出し,本件貸付債権は再生債権の届出をしたとみなされたものである。

しかしながら,本件貸付債権は,抗告人が本件再生手続に係る再生手続開始の申立てより16年以上前にその実弟であるAから2000万円の貸付けを受けたことにより発生したというものであり,本件仮登記が経由されたのは,別件訴訟の提起後で上記貸付けの時から14年以上を経過した平成25年12月であって,抗告人は,原審において本件貸付債権の裏付けとなる資料の提出を求められながら,借用証や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出していないなど,本件貸付債権が実際には存在しないことをうかがわせる事情がある。

そして,本件貸付債権については一般異議申述期間内に異議が述べられなかったため,Aは議決権の総額の2分の1を超える議決権を行使することができることとなり,本件再生計画案が可決されるに至っている。

以上の事情によれば,本件においては,抗告人が,実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどして本件再生計画案を可決に至らしめた疑いがあるというべきであって,抗告人が再生債務者として債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることに照らすと(法38条2項参照),本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いが存するといえる。

しかるに,本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かについて,本件貸付債権の存否を含めた調査は尽くされていない。

論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官木内道祥の補足意見がある。 

 

In the Case Summary for Individual Rehabilitation

Even in a small-scale personal rehabilitation, where a rehabilitation claim has been filed (including cases deemed to have been filed under Article 225 of the Civil Rehabilitation Law) and no objection has been made until the expiry of the general objection period or the special objection period, when judging whether the approval of a rehabilitation plan that includes a special provision for housing funds is based on an act contrary to the principle of good faith, it is possible to consider various circumstances related to the filing of the said rehabilitation claim, including the existence or non-existence of the said claim.

 

民事再生法

(住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可又は不認可の決定等)
(Order of Confirmation or Disconfirmation of a Rehabilitation Plan Specifying Special Clauses on a Home Loan)
第二百二条住宅資金特別条項を定めた再生計画案が可決された場合には、裁判所は、次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。
Article 202(1)When a proposed rehabilitation plan that specifies special clauses on a home loan is approved, the court issues an order of confirmation of the rehabilitation plan, except in the cases set forth in the following paragraph.
2裁判所は、住宅資金特別条項を定めた再生計画案が可決された場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、再生計画不認可の決定をする。
(2)When a proposed rehabilitation plan that specifies special clauses on a home loan is approved, the court, in any of the cases set forth in the following items, issues an order of confirmation of the rehabilitation plan:
一第百七十四条第二項第一号又は第四号に規定する事由があるとき。
(i)when the rehabilitation plan falls under any of the grounds prescribed in Article 174, paragraph (2), item (i) or (iv);
二再生計画が遂行可能であると認めることができないとき。
(ii)when it is found that the rehabilitation plan cannot be feasibly executed;
三再生債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれるとき。
(iii)when the rehabilitation debtor is likely to lose ownership of the residence or the right to use the land, which is currently used for the residence, for the purpose of owning the residence;
四再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。
(iv)when the resolution on the rehabilitation plan has been adopted by unlawful means.
3住宅資金特別条項によって権利の変更を受けることとされている者は、再生債権の届出をしていない場合であっても、住宅資金特別条項を定めた再生計画案を認可すべきかどうかについて、意見を述べることができる。
(3)A person who is supposed to be subject to a modification of rights by special clauses on home loans, even if they have not filed a proof of rehabilitation claim, may state their opinions with regard to whether or not the proposed rehabilitation plan that specifies the special clauses on home loan should be confirmed.
4住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可又は不認可の決定があったときは、住宅資金特別条項によって権利の変更を受けることとされている者で再生債権の届出をしていないものに対しても、その主文及び理由の要旨を記載した書面を送達しなければならない。
(4)Where an order of confirmation or disconfirmation of the rehabilitation plan that specifies special clauses on home loan is made, a document stating the main text of the order and the outline of the reasons attached thereto must also be served upon any person who is supposed to be subject to a modification of rights by the special clauses on home loan but has not filed a proof of rehabilitation claim.
5住宅資金特別条項を定めた再生計画案が可決された場合には、第百七十四条第一項及び第二項の規定は、適用しない。
(5)When a proposed rehabilitation plan that specifies special clauses on home loan is approved, the provisions of Article 174, paragraphs (1) and (2) do not apply.