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再生計画認可決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

令和3年12月22日最高裁判所第二小法廷決定

判示事項    
再生計画の決議について民事再生法174条2項3号所定の不認可事由があるとはいえないとされた事例

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/820/090820_hanrei.pdf

第1 令和3年(許)第4号抗告人及び同第6号抗告人の各抗告理由のうち株式会社エーエヌディーとの間の和解契約に関し民事再生法(以下「法」という。)174条2項3号に該当する事由がある旨をいう点並びに同第5号抗告代理人の抗告理由について

1 本件は,医療法人社団冠心会を再生債務者とする再生手続においてされた再生計画認可の決定に対し,再生債権者である各抗告人が法174条2項3号等に該当する事由があると主張して即時抗告をしたところ,原審が上記事由はないとして抗告棄却決定をしたため,各抗告人が上記決定に対して更に抗告をした事件である。

2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
冠心会は,病院を経営する医療法人である。
東京地方裁判所(「本件再生裁判所」)は,令和元年8月27日,冠心会につき,再生手続開始の決定をするとともに,その業務及び財産に関し,管財人による管理を命ずる処分をし,A弁護士(「本件管財人」)を管財人に選任した。
エーエヌディーは,冠心会及び医療法人一成会との間で,医療機器メーカー等から仕入れた医療機器等を冠心会ないし一成会に転売する取引を行っていた。そして,エーエヌディーと冠心会との間では,上記取引に関し,平成30年6月21日付けで,冠心会がエーエヌディーに対する売買代金等5億7770万円余及び遅延損害金の債務につき支払義務を負うこと並びに冠心会が一成会の連帯保証人として一成会のエーエヌディーに対する売買代金等4億2200万円余及び遅延損害金の債務につき支払義務を負うことを認める旨などが記載された執行認諾文言付きの債務承認債務弁済契約等公正証書(「本件公正証書」)が作成されていた。本件公正証書は,エーエヌディーと冠心会の双方において弁護士を代理人に選任した上で作成されたものであった。
エーエヌディーは,本件再生裁判所に対し,本件公正証書記載の債権のうち売掛金債権5億2027万円余及び遅延損害金債権7198万円余並びに連帯保証債権4億0740万円余及び遅延損害金債権8149万円余につき,執行力ある債務名義のあるものとして債権届出をした(以下,上記債権届出に係る債権を「本件届出債権」という。)。
エーエヌディーは,令和元年7月24日,福岡地方裁判所において再生手続開始の決定を受けていた。本件管財人は,上記の再生裁判所に対し,冠心会のエーエヌディーに対する21億円余の不当利得返還請求権につき債権届出をし,エーエヌディーがその全額を否認したことから,同年11月20日に本件再生裁判所の許可を得た上,上記の届出債権(「冠心会届出債権」)の額を11億7541万円余と査定することを求める申立て(「本件査定申立て」)をした。
また,本件管財人は,本件再生裁判所の債権調査において,本件届出債権につき,その全額を否認し,令和2年1月14日に本件再生裁判所の許可を得た上,本件公正証書の執行力の排除を求める請求異議の訴え(「本件請求異議訴訟」)を提起した。
本件管財人は,エーエヌディーと冠心会及び一成会との間の上記 の取引の中には売買契約等の目的物の納入を伴わない架空のものが含まれており,架空取引に係る契約は不存在又は無効であるから,本件届出債権はその全額が存在しないこととなる一方,冠心会はエーエヌディーに対して支払った売買代金等につき不当利得返還請求権を有することとなるなどと主張して本件請求異議訴訟の提起及び本件査定申立てをしたものであった。もっとも,本件管財人において,本件公正証書の作成等に関与した冠心会の元理事らから上記の主張を裏付けるための協力は得られておらず,冠心会からエーエヌディーに対する支払と各売買契約等との対応関係も明らかになっていなかった。
本件管財人は,同年3月31日,本件再生裁判所に再生計画案(「本件再生計画案」)(本件再生計画案に係る再生計画を「本件再生計画」)を提出した。本件再生裁判所は,同年4月17日,本件再生計画案を決議に付する旨の決定をし,上記決議のための債権者集会の期日を同年7月15日午後3時と定めた。
本件管財人は,同年6月23日,本件再生裁判所の許可を得た上で,エーエヌディーとの間で,要旨次のとおりの和解契約(「本件和解契約」)を締結した。上記許可は,本件届出債権及び冠心会届出債権が長期にわたり確定しないことは冠心会及びエーエヌディーの各再生手続にとって望ましいものではなく,現金の流出のない形で紛争を早期に終了させることには合理性がある旨の本件管財人の説明を踏まえてされたものであった。

ア 本件管財人は,同年7月3日までに,本件査定申立て及び本件請求異議訴訟を取り下げる。

イ 本件管財人が上記の取下げをした場合,エーエヌディーは,同月7日までに本件再生計画案に賛成票を投ずる。

ウ エーエヌディーは,本件再生計画の認可の決定が確定したときは,冠心会に対し,本件査定申立てに関する解決金として640万0800円を支払う。

エ エーエヌディーと本件管財人は,本件再生計画の定めによる権利変更後に本件届出債権につき冠心会がエーエヌディーに対して弁済すべき額が640万0800円となることを確認し,本件再生計画の認可の決定が確定したときは,上記権利変更後の本件届出債権と上記ウの解決金債権とを対当額で相殺する。

オ エーエヌディーと本件管財人は,エーエヌディーと冠心会との間に,本件和解契約で定めるもののほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する。
本件管財人は,本件和解契約に従い本件査定申立て及び本件請求異議訴訟を取り下げた。
エーエヌディーは,本件和解契約に従い本件再生計画案に賛成票を投じ,上記債権者集会において,本件再生計画案は,議決権者の議決権の総額の約61%の議決権を有する者の同意を得て可決された。エーエヌディーは,上記総額のうち約20%の議決権を有していた。

3 所論は,本件和解契約の締結はエーエヌディーに対して不正な利益を供与するものであり,本件再生計画案の可決は信義則に反する行為に基づいてされたものであるから,法174条2項3号に該当する事由がある旨をいう。

4 そこで検討すると,本件和解契約によれば,冠心会は,本件再生計画の認可の決定が確定したときは,エーエヌディーに対する640万円余の解決金債権を新たに取得し,これとの相殺により権利変更後の本件届出債権の全額を消滅させることができることとなる。本件和解契約締結当時,本件届出債権の存在等を裏付けるものとしてエーエヌディーと冠心会の双方が弁護士を代理人に選任して作成された本件公正証書が存在する一方,本件管財人は本件届出債権の不存在及び冠心会届出債権の存在を裏付ける確たる証拠を有しているとはいい難い状況にあった上,エーエヌディーにつき再生手続が開始されており,仮に冠心会届出債権の存在が確定したとしても通常はその少なからぬ部分につき回収不能となることが見込まれたものであり,冠心会の再生手続の進行状況等をも考慮すれば,本件和解契約の締結は,エーエヌディーに一方的に有利なものではなく,冠心会にとっても合理性があるものであったということができる。そして,以上のような本件和解契約の内容,冠心会の置かれていた客観的状況に加え,本件和解契約の締結の経緯等にも照らせば,本件和解契約が専らエーエヌディーの議決権行使に影響を及ぼす意図で締結されたとまではいえない。これらの事情に照らせば,本件和解契約の締結が,エーエヌディーに対して不正な利益を供与するものであるとも信義則に反する行為に当たるとも断じ難いというべきであって,本件の事実関係の下において,本件再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとまではいえない。したがって,上記決議について法174条2項3号に該当する事由はないとした原審の判断は,結論において是認し得る。論旨は採用することができない。

第2 令和3年(許)第4号抗告人及び同第6号抗告人のその余の抗告理由について
本件の事実関係の下において,所論の点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官菅野博之,同草野耕一の補足意見,裁判官三浦守の補足意見がある。