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求償権が再生債権である場合において共益債権である原債権を再生手続によらないで行使することの可否

平成23年11月24日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は,同人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても,再生手続によらないで上記共益債権を行使することができる。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=81779

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/779/081779_hanrei.pdf

 1 本件は,弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した被上告人が,再生管財人である上告人に対し,再生手続によらないで,その支払を求める事案である。被上告人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎないことなどから,被上告人は再生手続によらないで上記共益債権を行使することができるか否かが争われている。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) Aは,平成19年9月3日,Bとの間で,船舶で使用する断熱材の製造を目的とする請負契約を締結し,平成20年1月頃,Bから,上記請負契約の報酬の一部を前渡金(「本件前渡金」)として受領した。

Aは,同年6月18日,再生手続開始の決定を受け,同社の再生管財人に選任された上告人は,同年7月1日,民事再生法49条1項に基づき,Bに対し,上記請負契約を解除する旨の意思表示をした。

(2) 上記再生手続開始前に本件前渡金の返還債務を保証していた被上告人は,同年8月8日,Bに対し,同債務を代位弁済した。

 3 原審は,被上告人は再生手続によらなければ本件前渡金の返還請求権を行使することはできないとして本件訴えを却下した第1審判決を取り消して,本件を第1審に差し戻した。

 4 弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの債権者の債務者に対する債権(「原債権」)及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり(最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決,同昭和61年2月20日第一小法廷判決),原債権を求償権を確保するための一種の担保として機能させることをその趣旨とするものである。この制度趣旨に鑑みれば,弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は,同人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても,再生手続によらないで上記共益債権を行使することができるというべきであり,再生計画によって上記求償権の額や弁済期が変更されることがあるとしても,上記共益債権を行使する限度では再生計画による上記求償権の権利の変更の効力は及ばないと解される(民事再生法177条2項参照)。以上のように解したとしても,他の再生債権者は,もともと原債権者による上記共益債権の行使を甘受せざるを得ない立場にあったのであるから,不当に不利益を被るということはできない。

これを本件についてみると,前記事実関係によれば,弁済による代位により本件前渡金の返還請求権を取得した被上告人は,Bに代位して,再生手続によらないで上記請求権を行使することができるというべきである。

 5 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。