最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となるか

平成23年10月25日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,販売業者とあっせん業者との関係,販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度,販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度等に照らし,販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ,売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/723/081723_hanrei.pdf

 1 本件は,第1審脱退被告(「本件あっせん業者」)の加盟店である販売業者(「本件販売業者」)との間で宝飾品の売買契約を締結し,本件あっせん業者との間で購入代金に係る立替払契約を締結した被上告人が,本件あっせん業者から事業の譲渡を受けた上告人に対し,上記売買契約が公序良俗に反し無効であることにより上記立替払契約も無効であること又は消費者契約法5条1項が準用する同法4条1項1号若しくは同条3項2号により上記立替払契約の申込みの意思表示を取り消したことを理由として,不当利得返還請求権に基づき,上記立替払契約に基づく既払金の返還を求めるとともに,本件あっせん業者がその加盟店の行為について調査する義務を怠ったことにより本件販売業者の行為による被害が発生したことを理由として,不法行為に基づき,上記既払金及び弁護士費用相当額の損害賠償を求め,他方,上告人が,被上告人に対し,上記立替払契約に基づき,未払割賦金の支払を求める事案である。なお,上記の不法行為の成立を否定し,弁護士費用相当額の損害賠償請求を棄却した原審の判断については,不服の申立てがなく,原判決中,同部分は当審の審理の対象ではない。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1)ア 被上告人は,平成15年3月,電話で勧誘を受けて,同月29日に本件販売業者の女性販売員と会い,同販売員に勧められて,同日,本件販売業者との間で,指輪等3点(以下「本件商品」という。)を代金合計157万5000円で購入する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
 本件売買契約の締結に至るまでの間,上記販売員が,長時間話し続け,被上告人の手を握ったりするなどの思わせぶりな言動をしながら,宝飾品の購入を勧め,その間に,上記販売員の仲間数人が集まってきて,威圧的な態度で購入を迫るなどしたため,被上告人は,帰宅を言い出すことができないまま,本件売買契約を締結するに至った。なお,本件商品については,後日,複数の宝石・貴金属取扱店において,併せて10万円程度であるとの査定がされた。

 イ 被上告人は,本件売買契約を締結した際,上記販売員が用意した本件あっせん業者宛てのクレジット契約申込書にも署名し,割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの。以下同じ。)2条3項2号に規定する割賦購入あっせん(以下「個品割賦購入あっせん」という。)を業とする本件あっせん業者に対し,本件あっせん業者が本件販売業者に本件商品の代金を立替払し,被上告人が本件あっせん業者に上記代金額に分割払手数料を加えた218万9250円を平成15年5月から平成20年4月まで60回に分割して支払う内容の立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)の申込みをした。
 本件あっせん業者は,平成15年3月30日,担当者が被上告人に電話をして,本件立替払契約の申込みにつき,その意思,内容等を確認した上,被上告人との間で,本件立替払契約を締結した。被上告人は,上記の確認の際,上記担当者に対し,本件売買契約や本件立替払契約の締結につき,特に苦情を述べることはなかった。

 ウ 被上告人は,平成15年5月頃,本件販売業者から本件商品の引渡しを受け,本件立替払契約に基づく割賦金として,同月から平成17年9月までに合計106万0850円を支払った(以下,これを「本件既払金」という。)。

 (2) 本件あっせん業者は,遅くとも平成14年頃から,本件販売業者と取引があり,平成15年1月23日頃,本件販売業者との間で,加盟店契約(以下「本件加盟店契約」という。)を締結した。
 本件販売業者の販売行為については,平成14年には,各地の消費生活センターに,購入者からの相談が年間70件ほど寄せられていたが,本件あっせん業者が本件販売業者との間の取引につき購入者から初めて支払停止の申出を受けたのは,平成15年4月15日であり,本件あっせん業者がそれまでに契約解除,取消し等をめぐって消費生活センター等から本件販売業者の販売行為に関する苦情,相談を受けたことはうかがわれない。

 (3) 上告人は,平成16年5月頃,本件あっせん業者から個品割賦購入あっせん事業の譲渡を受けた。

 (4) 被上告人は,上告人に対し,平成17年10月7日頃,「解約を強く祈願させていただきます」などと記載した書面を送付し,平成18年1月15日,「商品は返すから後はそっちで貸し倒れにしてほしい」などと告げた。
 被上告人は,平成17年10月以降,本件立替払契約に基づく割賦金を支払っておらず,上記割賦金のうち合計112万8400円が未払である(以下,これを「本件未払金」という。)。

 (5) 本件販売業者は,休業又は廃業の状態にある。

 (6) 上告人は,消費者契約法の規定による取消権については,被上告人が追認をすることができる時から6箇月以内に行使しなかったので,時効により消滅したと主張して,これを援用した。

 3 原審は,上記事実関係の下において,本件売買契約は公序良俗に反し無効であるとして,上告人の本件未払金の支払請求を棄却し,かつ,被上告人の不当利得返還請求権に基づく本件既払金の返還請求について,次のとおり判断して,その部分に係る被上告人の請求を認容した。

 (1) 個品割賦購入あっせんは,購入者と販売業者の二者取引である売買にあっせん業者を加えて三者契約としたもので,本来は一体的な関係にあったのであるから,売買が無効等になる場合には,代金の支払のための法律関係にもそれをできる限り反映させるべき要請がある。売買契約が公序良俗に反し無効である場合,割賦販売法30条の4第1項の規定により,あっせん業者からの未払金の支払請求は拒むことができるのに対し,あっせん業者に対し既払金の返還を求めることはできないという結果は,購入者にとって不均衡な感を否めない。

 (2) 本件販売業者は,本件あっせん業者のために,本件立替払契約の締結の準備行為である申込手続を代行していること,本件あっせん業者にとって,本件立替払契約を締結した当時,本件販売業者について消費生活センターからクレームが付いていることを全くうかがえないわけではなかったこと,被上告人は,本件販売業者から本件既払金相当額の回収を図ることは実際上できないことなどの事情を総合すると,本件売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,本件立替払契約は目的を失って失効し,被上告人は,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,本件既払金の返還を求めることができるというべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 個品割賦購入あっせんは,法的には,別個の契約関係である購入者と割賦購入あっせん業者(「あっせん業者」)との間の立替払契約と,購入者と販売業者との間の売買契約を前提とするものであるから,両契約が経済的,実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても,購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗することはできないというべきであり,割賦販売法30条の4第1項の規定は,法が,購入者保護の観点から,購入者において売買契約上生じている事由をあっせん業者に対抗し得ることを新たに認めたものにほかならない(最高裁平成2年2月20日第三小法廷判決)。
 そうすると,個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,販売業者とあっせん業者との関係,販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度,販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度等に照らし,販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ,売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はないと解するのが相当である。

 (2) これを本件についてみると,本件販売業者は,本件あっせん業者の加盟店の一つにすぎず,本件販売業者と本件あっせん業者との間に,資本関係その他の密接な関係があることはうかがわれない。そして,本件あっせん業者は,本件立替払契約の締結の手続を全て本件販売業者に委ねていたわけではなく,自ら被上告人に本件立替払契約の申込みの意思,内容等を確認して,本件立替払契約を締結している。また,被上告人が本件立替払契約に基づく割賦金の支払につき異議等を述べ出したのは,長期間にわたり約定どおり割賦金の支払を続けた後になってからのことであり,本件あっせん業者は,本件立替払契約の締結前に,本件販売業者の販売行為につき,他の購入者から苦情の申出を受けたことや公的機関から問題とされたこともなかったというのである。これらの事実によれば,上記特段の事情があるということはできず,他に上記特段の事情に当たるような事実もうかがわれない。したがって,本件売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,本件立替払契約が無効になると解すべきものではなく,被上告人は,本件あっせん業者の承継人である上告人に対し,本件立替払契約の無効を理由として,本件既払金の返還を求めることはできない。

 5 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中被上告人の請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れない。

そして,前記事実関係によれば,被上告人が消費者契約法の規定による取消権を追認をすることができる時から6箇月以内に行使したとはいえないから,同法7条1項により,その取消権は時効によって消滅したことが明らかであり,被上告人の消費者契約法の規定による取消しを理由とする本件既払金の返還請求は理由がない。また,前記事実関係によれば,本件あっせん業者がその加盟店の行為について調査する義務を怠ったとはいえないから,被上告人の不法行為に基づく本件既払金相当額の損害賠償請求も理由がない。したがって,上記各請求をいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,前記破棄部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。