最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

夫婦の一方が他方と不貞行為に及んだ第三者に対し離婚に伴う慰謝料を請求することの可否

平成31年2月19日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,当該第三者が,単に不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/422/088422_hanrei.pdf

1 本件は,被上告人が,上告人に対し,上告人が被上告人の妻であったAと不貞行為に及び,これにより離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったと主張して,不法行為に基づき,離婚に伴う慰謝料等の支払を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人とAは,平成6年3月,婚姻の届出をし,同年8月に長男を,平成7年10月に長女をもうけた。

(2) 被上告人は,婚姻後,Aらと同居していたが,仕事のため帰宅しないことが多く,Aが上告人の勤務先会社に入社した平成20年12月以降は,Aと性交渉がない状態になっていた。

(3) 上告人は,平成20年12月頃,上記勤務先会社において,Aと知り合い,平成21年6月以降,Aと不貞行為に及ぶようになった。

(4) 被上告人は,平成22年5月頃,上告人とAとの不貞関係を知った。Aは,その頃,上告人との不貞関係を解消し,被上告人との同居を続けた。

(5) Aは,平成26年4月頃,長女が大学に進学したのを機に,被上告人と別居し,その後半年間,被上告人のもとに帰ることも,被上告人に連絡を取ることもなかった。

(6) 被上告人は,平成26年11月頃,横浜家庭裁判所川崎支部に対し,Aを相手方として,夫婦関係調整の調停を申し立て,平成27年2月25日,Aとの間で離婚の調停が成立した。

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
上告人とAとの不貞行為により被上告人とAとの婚姻関係が破綻して離婚するに至ったものであるから,上告人は,両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い,被上告人は,上告人に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができる。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。

したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。

三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。

以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,被上告人の妻であったAと不貞行為に及んだものであるが,これが発覚した頃にAとの不貞関係は解消されており,離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって,被上告人は,上告人に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができないというべきである。

5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決中上告人敗訴部分を取り消し,同部分につき被上告人の請求を棄却すべきである。