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行政処分無効確認訴訟提起後に右処分が取り消された場合と訴の利益

昭和36年4月21日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
行政処分無効確認訴訟は国家賠償請求の目的で提起されたものであるからといつて、処分庁が右処分を取り消した後においても、なおその法律上の利益があるということはできない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/706/053706_hanrei.pdf

 上告代理人の上告理由第一点、第三点、第四点及び第五点について。
 原判決の確定した事実によれば、被上告人B農業委員会の前身たるD農地委員会は昭和二三年一二月一六日自作農創設特別措置法一五条に基き本件買収計画を樹立・公告したが、買収令書の交付される前に買収申請の取下があつたため、昭和二七年五月二八日本件買収計画を取り消す旨の決議をし、その頃これを公告したというのである。してみると、本件買収計画は、買収申請の取下により瑕疵を帯びるに至り、右瑕疵を理由とする取消により、初めに遡りその存在を失うに至つたものと解すべきであるから、上告人は、右計画の無効確認を求めるにつき法律上の利益を欠くに至つたものと解すべきである、右と同旨の結論をとる原判決は正当であり、所論は、右に反する独自の見解の下に原判決を非難するものであるか、又は原判決の結論に影響しない、その表現の不適切な部分をとらえてこれを攻撃するものであつて、すべて採用のかぎりでない。

 同第六点の第二について。
 買収の要件を定めた自作農創設特別措置法の規定が強行法規であることは所論のとおりであるが、強行法規の違背が常に行政処分の当然無効の原因となるものと解すべきではなく、その違背が重大かつ明白と認められる場合にかぎつて当然無効の原因となるものと解すべきことは当裁判所の判例とするところである(昭和三五年六月一四日第三小法廷判決)。右に反する所論は、独自の見解あつて、採用に値しない。

また、行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではないから、本訴が被上告人委員会の不法行為による国家賠償を求める目的に出たものであるということだけでは、本件買収計画の取消後においても、なおその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するということの理由とするに足りない。