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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

所有者の異なる数筆の土地に跨つて存在する建物と建物買取請求権

 昭和42年9月29日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
一 借地権者から建物とともに借地権を譲りうけた第三者が、該借地権譲受について賃貸人の承諾のえられぬまま、右建物に増築等の工事を施したときは、判示のような場合を除き、譲受当時の原状に回復したうえでなければ買取請求権を行使できないものと解すべきである。
二 所有者の異なる数筆の土地に跨つて存在する建物についての借地法第一〇条の建物買取請求権は、当該賃貸人の所有地上に存する建物部分が区分所有権の対象となる場合にかぎり、その部分についてのみ認められるものと解すべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/049/055049_hanrei.pdf

 

上告人の上告理由第二、第三および第五点について。

借地法一〇条に基づく買取請求権は、借地権者が権原に因つて土地に附属させた建物その他の物について認められるものであるから、借地権者から建物とともに借地権を譲りうけた第三者が、該借地権譲受につき賃貸人の承諾をえられぬまま、右建物に増築・改築・修繕等の工事を施したときは、譲受当時の原状に回復した上でなければ買取請求権を行使できないものと解すべきである。

けだし、これを実質的に考察しても、借地権譲受について賃貸人の承諾をえず、したがつて敷地使用の権限がないにもかかわらず地上建物の増改築等をする者は、その危険を自ら負担することを覚悟している筈であり、反面、賃貸人は借地権の譲渡を承諾しない以上、譲渡当時の建物を買い取る義務はあるが、その後予想しない価格の増加をこれに負担させるのは不合理であるからである。

もつとも、右の工事が建物等の維持・保存に必要であるとき、または些細なものであつて、建物等の価格を著しく増大せしめることなく賃貸人をして予想外の出捐を余儀なくせしめるものでないときは、制度の趣旨にかんがみ、建物の現状における買収請求を否定すべきではなく、また、右第三者が、工事による増加価格を放棄し、該建物の譲受当時の状態における価格による買収請求をした場合も、認容されるべきである。

本件において原審の認定したところによれば、被上告人は訴外Dから本件建物を取得したのち二階を増築し、その状態において上告人に買収請求をしたものであるが、原審は、右増築が、前記説示の例外的場合に該当するかどうかについてなんら審理判断をせずに、たやすく増築建物の現状における価格での買収請求を認容しているのであつて、この点において原判決には、審理不尽・理由不備の違法があり、破棄を免れない。

同第六点について。

原判決は、所有者の異なる数筆の土地に跨つて存在する本件建物のうち上告人所有地上に存する部分についてのみ買取請求を認めている。

しかし、買取請求によつて建物の所有権は土地賃貸人に移転するのであるから、買取請求の対象となる建物は独立の所有権の客体となるに適するものであることを要する。

それは、必らずしも一棟の建物であることを要しないが、その一部であるときは、区分所有権の対象となるものでなければならない。

したがつて、建物の取得者は、該建物のうち賃貸人所有地上の部分を区分所有権の客体たるに適する状態にした後初めて買取請求ができるのである。

原判決が、上告人所有地上に存する本件建物部分が独立の所有権の客体たるに適するかどうかにつき判示することなく漫然建物の一部分につき買取請求を認容したのは、借地法一〇条の解釈を誤つたか、または理由不備の違法があるというべきである。この点においても原判決は破棄を免れない。