最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結後における建物買取請求権の行使と請求異議の訴え

 平成7年12月15日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
土地の賃借人が賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結後に建物買取請求権を行使した場合、その行使の効果は、建物収去土地明渡請求を認容する確定判決に対する請求異議の訴えにおける異議の事由となる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/060/057060_hanrei.pdf

借地上に建物を所有する土地の賃借人が、賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時までに借地法四条二頃所定の建物買取請求権を行使しないまま、賃貸人の右請求を認容する判決がされ、同判決が確定した場合であっても、賃借人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができるものと解するのが相当である。けだし、

(1) 建物買買請求権は、前訴確定判決によって確定された賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり、これとは別個の制度目的及び原因に基づいて発生する権利であって、賃借人がこれを行使することにより建物の所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、その結果として賃借人の建物収去義務が消滅するに至るのである、

(2) したがって、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったとしても、実体法上、その事実は同権利の消滅事由に当たるものではなく(最高裁昭和五二年六月二〇日第二小法廷判決)、訴訟法上も、前訴確定判決の既判力によって同権利の主張が遮断されることはないと解すべきものである、

(3) そうすると、賃借人が前訴の事実訴口頭弁論終結時以後に建物買取請求権を行使したときは、それによって前訴確定判決により確定された賃借人の建物収去義務が消滅し、前訴確定判決はその限度で執行力を失うから、建物買取請求権行使の効果は、民事執行法三五条二項所定の口頭弁論の終結後に生じた異議の事由に該当するものというべきであるからである。

これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。