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留置権者が留置物の使用等の承諾を受けた後に留置物の所有権を取得した者による留置物の使用等を理由とする留置権の消滅請求の可否

平成9年7月3日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、右につき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が留置物の使用又は賃貸についての承諾を受けていたときは、新所有者は、留置権者に対し、右使用等を理由に留置権の消滅請求をすることはできない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/788/054788_hanrei.pdf

 

留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、右につき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が民法二九八条二項所定の留置物の使用又は賃貸についての承諾を受けていたときには、留置権者は右承諾の効果を新所有者に対し対抗することができ、新所有者は右使用等を理由に同条三項による留置権の消滅請求をすることができないものと解するのが相当である。

原審の適法に確定した事実関係等によれば、被上告会社は、合資会社D商店に対する第一審判決添付物件目録一の3記載の建物の建築請負残代金債権に関し、同建物につき留置権を有し、上告人が右建物の所有権を取得する原因となった不動産競売が開始されるよりもまえに、D商店からその使用等について包括的な承諾を受けていたというのであるから、上告人に対し、右建物の使用及び右競売開始後に第三者に対してした賃貸を対抗することができるものというべきである。

そうすると、被上告会社による右建物の使用及び賃貸を理由とする上告人の留置権の消滅請求の主張は採用することができず、上告人の本件建物の所有権に基づく明渡請求に対する被上告会社の留置権の抗弁は理由があり、原審の判断は、右と同旨をいうものとして、是認することができる。論旨は、独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものであって、採用することができない。