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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

内縁の夫の運転する自動車に同乗中に第三者の運転する自動車との衝突事故により傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合にその賠償額を定めるに当たり内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することの可否

 平成19年4月24日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
内縁の夫が内縁の妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが衝突し,それにより傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合において,その損害賠償額を定めるに当たっては,内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/553/034553_hanrei.pdf

 

上告代理人の上告受理申立て理由について

1 本件は,内縁の夫の運転する自動車の助手席に同乗していた被上告人が,同車と上告人の運転する自動車とが衝突した事故により傷害を負い,後遺障害が残ったなどと主張して,運行供用者である上告人に対し,自動車損害賠償保障法3条に基づき損害賠償を請求したところ,上告人が,過失相殺の抗弁として,被上告人の内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮すべきである旨を主張して,その損害賠償額を争っている事案である。

2 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 平成13年8月6日午後0時10分ころ,被上告人の内縁の夫であるAが被上告人を助手席に同乗させて運転する自動車が,前橋市a町b丁目c番d号先の交通整理の行われていない交差点に進入したところ,交差する道路を左側から走行してきて同交差点に進入した上告人運転の自動車と衝突するという事故が発生した(「本件事故」)。

(2) 被上告人は,本件事故により,頸椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負い,また,パニック障害,うつ症状等の後遺障害が残った。

(3) 上告人は,運行供用者として,自動車損害賠償保障法3条に基づき,被上告人に対して被上告人が本件事故により被った損害を賠償する責任を有する。

3 原審は,被上告人においてAが飲酒運転や無謀運転をすることを知りながら同乗したなどの事情が認められない本件においては,上告人が被上告人に対して支払うべき損害賠償額を定めるに当たり,Aの過失を被害者側の過失として考慮することはできず,上告人の過失相殺の抗弁はそれ自体として理由がないと判断して,194万8976円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

不法行為に基づき被害者に対して支払われるべき損害賠償額を定めるに当たっては,被害者と身分上,生活関係上一体を成すとみられるような関係にある者の過失についても,民法722条2項の規定により,いわゆる被害者側の過失としてこれを考慮することができる(最高裁昭和42年6月27日第三小法廷判決,最高裁昭和51年3月25日第一小法廷判決)。

内縁の夫婦は,婚姻の届出はしていないが,男女が相協力して夫婦としての共同生活を営んでいるものであり,身分上,生活関係上一体を成す関係にあるとみることができる。

そうすると,内縁の夫が内縁の妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが衝突し,それにより傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合において,その損害賠償額を定めるに当たっては,内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができると解するのが相当である。

本件において,被上告人は,内縁の夫であるAの運転する自動車に同乗していたところ,同車と上告人運転の自動車とが衝突した本件事故により傷害を負ったというのであるから,上告人が被上告人に対して支払うべき損害賠償額を定めるに当たっては,Aの過失を被害者側の過失として考慮することができるというべきである。

5 以上によれば,上告人が被上告人に対して支払うべき損害賠償額を定めるに当たり,Aの過失を被害者側の過失として考慮することができないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,Aの過失の有無,過失割合について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。