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入会部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第94条第2項の適用または類推適用がない。

 昭和43年11月15日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
入会部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第九四条第二項の適用または類推適用がない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/292/070292_hanrei.pdf

所論は、本件(甲)(乙)の土地は部落民全員の総有に属するところ、右部落民全員が、右各土地について訴外D、同E、同Fの三名の共有の登記(以下、本件共有登記という。)を経由したことは、右(甲)(乙)土地を右三名に売却した旨の通謀虚偽表示をして登記簿上右三名の共有である旨の虚偽の外観を作り出したものであるから、民法九四条二項の適用または類推適用により、被上告人らは、右各土地が右Dら三名の共有ではないことを、善意の第三者である上告人らに対抗できない旨主張する。

思うに、右(甲)(乙)の土地については、それぞれ、明治四〇年一一月二七日a村大字bの名義で保存登記がされていたが、ついで明治四一年二月七日受附をもつて、前記Dら三名の名義で売買による所有権移転登記(本件共有登記)が経由され、さらに昭和三六年五月三一日受附をもつて、第一審被告Gのため、その先代D名義の三分の一の持分について、相続を原因とする所有権持分移転登記が経由されていることは、原審の確定した事実である。

しかし、さらに原審が適法に確定したところによれば、右(甲)(乙)の土地については古くから原判示の入会権が存在し、その地盤である右土地は、いわゆる村中入会の土地として大字bの部落民全員の総有に属して現在にいたつたのであるが、部落名義の保存登記では登記権利者としての資格を欠如するため、当時のa村の所有名義にするか、あるいは部落民全員の名義にするかの岐路に立たされ、登記の必要上、当時の部落の区長ないし区長代理をしていた前記Dら三名の代表者名義で、右のとおり本件共有登記を経由したというのである。

そうすれば、総有の対象である右(甲)(乙)の土地については、もともと共有持分というものは存在しえないものであるにもかかわらず、あえて本件共有登記が経由されるにいたつたのは、前示のように、部落民全員が入会権者として登記の必要に迫られるがら、共有の性質を有する入会権における総有関係を登記する方法がないため、単に登記の便宜から登記簿上前記三名の共有名義にしたにすぎないのであつて、これを捉えて入会権者と前記三名との間に仮装の売買契約があつたものと解し、あるいはこれと同視すべきものとすることは、相当でないというべきである。

したがつて、民法九四条二項の適用または類推適用がないとした原審の判断は是認できる(所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。)。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。