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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

元請企業につき下請企業の労働者に対する安全配慮義務が認められた事例

 平成3年4月11日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり、元請企業の管理する設備工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであったなど原判示の事実関係の下においては、元請企業は、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負う。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/640/062640_hanrei.pdf

 

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。

右認定事実によれば、上告人の下請企業の労働者が上告人のD造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

そして、原審の適法に確定した右事実関係の下においては、上告人主張の免責事由は認められないとした点、その他所論の点に関する原審の判断も正当として是認することができる。

原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。