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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

意思能力のある子の法定代理人による認知の訴

 昭和43年8月27日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
未成年の子の法定代理人は、子に意思能力がある場合でも、子を代理して、認知の訴を提起することができる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/087/054087_hanrei.pdf

 

身分上の行為は、原則として法定代理人が代理して行なうことはできず、無能力者であつても意思能力があるかぎり、本人が単独でこれを行なうべきものであり、これに対応して、人事訴訟については訴訟無能力に関する民事訴訟法の規定は適用がないものとされているのである。

したがつて、未成年の子も、意思能力がある場合には、法定代理人の同意なしに自ら原告となつて認知の訴を提起することができるものであり、このことは人事訴訟手続法三二条一項、三条一項の規定に照らしても明らかである。

しかし、他方、民法七八七条は子の法定代理人が認知の訴を提起することができる旨を規定しているのであり、その趣旨は、身分上の行為が本人によつてなされるべきであるという前記の原則に対する例外として、法定代理人が子を代理して右訴を提起することをも認めたものと解すべきである。

また、人事訴訟手続法も、無能力者については当事者本人が訴訟行為をすることを原則としてはいるが、法定代理人の代理行為をまつたく許していないものとは解されない。

そして、このように法定代理人が子を代理して認知の訴を提起することができるものとすることによつて、子に意思能力がない場合でも右訴の提起が可能となるのであるが、子に意思能力がない場合にかぎつて法定代理人が右訴を提起することができるものと解することは、子の意思能力の有無について紛争を生じ訴訟手続の明確と安定を害することになるおそれがあつて、相当でなく、他面、子に意思能力がある場合にも法定代理人が訴訟を追行することを認めたからといつて、必ずしも子の利益を実質的に害することにはならないものと解されるのである。

したがつて、未成年の子の法定代理人は、子が意思能力を有する場合にも、子を代理して認知の訴を提起することができるものと解するのが相当である。

してみれば、被上告人の法定代理人母Dが被上告人を代理して提起した本件認知の訴は、その提起当時満一四才九ケ月であつた被上告人が意思能力を有していたとしても、なお適法なものと認めるべきであつて、その前提に立つて本案判決をした原審の措置に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

 

Summary of the Judgment
Even if a minor child has the capacity to form intent, the legal representative of the child may act on behalf of the child and file a paternity suit against the father.