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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け,同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合における,当該債務者の相続人の民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」該当性

 令和3年6月21日最高裁判所第一小法廷決定

裁判要旨    
担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け,同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合,当該債務者の相続人は,民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」に当たらないので買受人になることが出来る。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/418/090418_hanrei.pdf

 

抗告代理人の抗告理由について

1 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。

横浜地方裁判所は,平成25年12月27日,Aが所有する原々決定別紙物件目録記載の土地建物につき,Aを債務者とする根抵当権の実行としての競売の開始決定をした(同裁判所同年(ケ)第1011号土地・建物担保競売事件。「本件競売事件」)。
Aは,平成26年6月18日,破産手続開始の決定を受け,同年9月18日,破産手続廃止の決定を受けた。Aは,同日,免責許可の決定を受け,同決定はその後確定した。

上記根抵当権の被担保債権は,上記免責許可の決定の効力を受けるものである。
Aは,平成27年2月23日に死亡し,その子である抗告人等がAを相続した。

執行官は,令和2年12月1日午前9時に開かれた本件競売事件の開札期日において,抗告人を最高価買受申出人と定めた。

執行裁判所は,令和2年12月21日,本件競売事件の債務者であったAの相続人である抗告人は上記土地建物を買い受ける資格を有せず,民事執行法(「法」)188条において準用する法71条2号に掲げる売却不許可事由があるとして,抗告人に対する売却不許可決定をした。この決定に対し,抗告人が執行抗告をした。

2 原審は,担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け,同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合であっても,当該債務者の相続人は法188条において準用する法68条にいう「債務者」に当たると判断し,上記の売却不許可事由があるとして,抗告人の執行抗告を棄却した。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

法188条において準用する法68条によれば,担保不動産競売において,債務者は買受けの申出をすることができないとされている。

これは,担保不動産競売において,債務者は,同競売の基礎となった担保権の被担保債権の全部について弁済をする責任を負っており,その弁済をすれば目的不動産の売却を免れ得るのであるから,目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるし,債務者による買受けを認めたとしても売却代金の配当等により被担保債権の全部が消滅しないのであれば,当該不動産について同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われ得るため,債務者に買受けの申出を認める必要性に乏しく,また,被担保債権の弁済を怠り,担保権を実行されるに至った債務者については,代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いと考えられることによるものと解される。

しかし,担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け,同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合には,当該債務者の相続人は被担保債権を弁済する責任を負わず,債権者がその強制的実現を図ることもできなくなるから,上記相続人に対して目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるとはいえないし,上記相続人に買受けを認めたとしても同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われることはなく,上記相続人に買受けの申出を認める必要性に乏しいとはいえない。また,上記相続人については,代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いとも考えられない。

そうすると,上記の場合,上記相続人は,法188条において準用する法68条にいう「債務者」に当たらないと解するのが相当である。

4 以上と異なる見解に立って,抗告人につき法188条において準用する法71条2号に掲げる売却不許可事由があるとした原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そこで,原々決定を取り消した上,その他の売却不許可事由の有無につき審理を尽くさせるため,本件を原々審に差し戻すこととする。

 

In a foreclosure auction of collateralized real estate, the debtor is not allowed to make a purchase offer. This is because in the foreclosure auction of collateralized real estate, the debtor is responsible for repaying the entire secured debt that forms the basis of the auction. If the debtor repays, they can avoid the sale of the property in question. Therefore, they should prioritize repayment of the secured debt over purchasing the property. Even if the debtor is allowed to buy the property, if the entire secured debt is not extinguished by the distribution of the sale proceeds, another forced auction can be initiated by the creditor of the same debt. Therefore, there is little need to allow the debtor to make a purchase offer. Furthermore, it is generally believed that there is a high risk that debtors who have failed to repay their secured debt and have faced foreclosure will obstruct the auction process by not paying the purchase price.

However, if the debtor of the foreclosure auction is declared bankrupt and given a discharge, and the secured debt that forms the basis of the auction is affected by the discharge decision, then the debtor's heirs are not responsible for repaying the secured debt. Creditors can't enforce repayment either. Therefore, it can't be said that the heirs should prioritize repayment of the secured debt over purchasing the property. Even if the heirs are allowed to purchase, another forced auction initiated by the creditor of the same debt will not occur. There is a need to allow the heirs to make a purchase offer. Moreover, it's unlikely that these heirs pose a typical high risk of obstructing the auction process by not paying the purchase price.

Given the above, in such a case, it would be appropriate to interpret that the aforementioned heirs do not fall under the definition of "debtor" as mentioned in Article 68 of the Civil Execution Law, which is applied mutatis mutandis in Article 188 of the same law.

 

弁護士中山知行