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労働組合が自然消滅した場合におけるその組合への金員の支払を命じていた救済命令の拘束力の消長と右命令の取消しを求める訴えの利益

平成7年2月23日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
組合員が存在しなくなったことなどにより労働組合が自然消滅した場合には、その組合が清算法人として存続していたとしても、使用者に対し右組合への金員の支払を命じていた救済命令の拘束力は失われ、その結果、右命令の取消しを求める訴えの利益は失われる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/505/052505_hanrei.pdf

一 原審の適法に確定した事実関係によれば、C労働組合支部(「D支部」)は、昭和五八年に被上告人労働委員会から労働組合法に適合する旨の証明を受け、法人登記をして法人格を取得したものであるところ、昭和六二年三月六日ころ最後に残っていた三名の組合員が脱退をした結果、組合員が一人もいなくなっただけではなく、同年四月には上告人A1乳業株式会社(「上告人A1乳業」)がE工場の営業施設を第三者に譲渡したことにより、E工場において被上告補助参加人C労働組合の組合員が労務に従事する可能性が当面失われたため、自然消滅したというべきであるが、その清算が結了したとは認められないというのである。

原審は、右事実関係の下において、本件救済命令主文第二項のうち、D支部に所属する組合員の給与から昭和五六年六月以降昭和五九年六月までの間に控除した組合費相当額及びこれに対する控除した日から支払済みに至るまでの年五パーセントの割合による金員をD支部に支払わなければならないと命じた部分は、D支部清算の目的の範囲内において存続している以上、なお有効性を失わないと判断し、その取消しを求める訴えが適法であるとの前提に立って、右部分に係る上告人A1乳業の請求を棄却した第一審判決を是認した。 

 二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
救済命令で使用者に対し労働組合への金員の支払が命ぜられた場合において、その支払を受けるべき労働組合が自然消滅するなどして労働組合としての活動をする団体としては存続しないこととなったときは、使用者に対する右救済命令の拘束力は失われたものというべきであり、このことは、右労働組合の法人格が清算法人として存続していても同様である。

けだし、使用者に対し労働組合への金員の支払を命ずる救済命令は、その支払をさせることにより、不当労働行為によって生じた侵害状態を是正し、不当労働行為がなかったと同様の状態を回復しようとするものであるところ、その労働組合が組合活動をする団体としては存続しなくなっている以上、清算法人として存続している労働組合に対し、使用者にその支払を履行させても、もはや侵害状態が是正される余地はなく、その履行は救済の手段方法としての意味を失ったというべきであるし、また、これを救済命令の履行の相手方の存否という観点からみても、右のような救済命令は、使用者に国に対する公法上の義務を負担させるものであって、これに対応した使用者に対する請求権を労働組合に取得させるものではないのであるから、右支払を受けることが清算の目的の範囲に属するということはできず、組合活動をする団体ではなくなった清算法人である労働組合は、もはやこれを受ける適格を失っているといわなければならないからである。

これを本件についてみると、組合員が一人もいなくなったことなどによりD支部が自然消滅したことは、原審の適法に確定するところであるから、上告人A1乳業に対し控除組合費相当額等のD支部への支払を命じた本件救済命令の前記部分は、既にその拘束力が失われているものというべきである。そうすると、上告人A1乳業がその取消しを求める法律上の利益は失われたというべきであって、右部分の取消しを求める訴えは却下すべきこととなる。

以上によれば、原審の前記判断は、法令の解釈適用を誤ったものであり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、上告理由第四点の論旨は理由がある。したがって、原判決は、右の部分につき破棄を免れず、同第五点について判断するまでもなく、上告人A1乳業の請求を棄却した第一審判決を取り消し、この部分に係る訴えを却下すべきである。 

労働組合

(救済命令等)
第二十七条の十二 労働委員会は、事件が命令を発するのに熟したときは、事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令(以下「救済命令等」という。)を発しなければならない。
2 調査又は審問を行う手続に参与する使用者委員及び労働者委員は、労働委員会が救済命令等を発しようとする場合は、意見を述べることができる。
3 第一項の事実の認定及び救済命令等は、書面によるものとし、その写しを使用者及び申立人に交付しなければならない。
4 救済命令等は、交付の日から効力を生ずる。
(救済命令等の確定)
第二十七条の十三 使用者が救済命令等について第二十七条の十九第一項の期間内に同項の取消しの訴えを提起しないときは、救済命令等は、確定する。
2 使用者が確定した救済命令等に従わないときは、労働委員会は、使用者の住所地の地方裁判所にその旨を通知しなければならない。この通知は、労働組合及び労働者もすることができる。