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 占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負う。

昭和54年7月31日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負う。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/236/062236_hanrei.pdf

 

原判決及び記録によると、原審は、被上告人が訴外Dによる本件土地の取得時効を主張するにあたり、まず同女が大正年間に訴外Eから本件土地を賃借してその占有を開始した旨を主張し、後に本件土地の取得時効の成立を争う上告人が右主張を援用するに及んでこれを撤回し、上告人がその撤回に異議を述べたのに対して、占有開始原因がどのようなものであるかは取得時効の要件ではなく、したがつて占有の開始が賃貸借による旨の被上告人の主張は自白にあたらないとの見解のもとに、その撤回を認め、訴外Dが大正一五年六月三〇日当時本件土地に居住していたとの事実に基づいて同日を始期とする本件土地の取得時効の成立を認めたことが明らかである。

しかしながら、占有者は所有の意思で占有するものと推定されるのであるから(民法一八六条一項)、占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負うというべきであり、占有が自主占有であるかどうかは占有開始原因たる事実によつて外形的客観的に定められるものであつて、賃貸借によつて開始された占有は他主占有とみられるのであるから(最高裁昭和四五年六月一八日第一小法廷判決)、取得時効の効果を主張する者がその取得原因となる占有が賃貸借によつて開始された旨を主張する場合において、相手方が右主張を援用したときは、取得時効の原因となる占有が他主占有であることについて自白があつたものというべきである。 

してみると、本件においては、本件土地の占有が賃貸借によつて開始されたとする被上告人の供述が自白にあたることが明らかであるから、まず自白の撤回の点について右自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものであるかどうかを審理し、その結果、自白の撤回が許される場合には本件土地の自主占有開始の時期及び原因について、自白の撤回が許されない場合には賃貸借による占有が自主占有に変更されたことを裏付ける新権原の存否について、それぞれ審理する必要があるものというべきであるところ、これと反する見解のもとに、これらの点について何ら審理をすることなく、訴外Dによる本件土地の取得時効の成立を認めた原判決には、法令の解釈の誤りによる審理不尽、理由不備の違法があるというべきであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 そして、叙上の点についてはさらに審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。