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賭博債権の譲渡を異議なく承諾した債務者が右債権の譲受人に対して賭博契約の公序良俗違反による無効を主張することの可否

 平成9年11月11日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/802/052802_hanrei.pdf

 

 一 賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるというべきである。

けだし、賭博行為は公の秩序及び善良の風俗に反すること甚だしく、賭博債権が直接的にせよ間接的にせよ満足を受けることを禁止すべきことは法の強い要請であって、この要請は、債務者の異議なき承諾による抗弁喪失の制度の基礎にある債権譲受人の利益保護の要請を上回るものと解されるからである。

 二 本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定した事実関係によれば、Dは、平成五年二月一五日、被上告人を債務者とし賭博の負け金七〇〇〇万円の支払を目的とする債権を上告人に譲渡し、被上告人は、同日、異議をとどめずに右譲渡を承諾したというのであるから、前記特段の事情のあることについての主張、立証もない本件においては、被上告人は、上告人に対して賭博行為の公序良俗違反を主張して右債権の履行を拒むことができるというべきである。

 三 そうすると、上告人の被上告人に対する右七〇〇〇万円の支払請求を棄却すべきものとした原判決の結論は正当であって、論旨は採用することができない。