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 控訴審における謀議の認定手続に不意打ちの違法があるとされた事例

昭和58年12月13日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
三月一二日から一四日までの謀議への関与を理由にハイジヤツクの共謀共同正犯として起訴された被告人につき、一三日及び一四日の謀議とりわけ一三日夜の第一次謀議への関与を重視してその刑責を肯定した第一審判決に対し、被告人のみが控訴を申し立てた事案において、右第一次謀議への関与の有無がハイジヤツクに関する謀議の成否の判断上とりわけ重要であるとの基本的認識に立つ控訴審が、一三日夜の被告人のアリバイの成立を認めながら、第一審判決が認定せず控訴審において被告人側が何らの防禦活動を行つていない一二日夜の謀議の存否を争点として顕在化させる措置をとることなく、率然として、第一次謀議の日を一二日夜であると認めてこれに対する被告人の関与を肯定した本件訴訟手続(判文参照)は、被告人に不意打ちを与え違法である。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/218/050218_hanrei.pdf

 

所論にかんがみ、職権をもつて記録を調査すると、原審の訴訟手続には、法令の違反があるが、いまだ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない。

その理由は、次のとおりである。

 一 記録に現われた本件訴訟の経過は、おおむね、次のとおりである。

被告人は、「A派に属する被告人が、B、C、Dら十数名と共謀のうえ、昭和四五年三月三一日午前七時三〇分すぎころ、富士山上空付近を航行中のE株式会社の定期旅客機(通称「よど」)内において、乗客を装い搭乗していた前記C、Dら九名において、抜身の日本刀を振りかざすなどしてスチユワーデスや乗客らの身体を順次ロープで縛り上げ、さらにはF機長らの背後から日本刀、短刀を擬すなどしてその反抗を抑圧し、よつて、右F機長らをして右C、Dらの命ずるままに航行するのやむなきに至らしめて右旅客機を強取し、その際、五名に加療約四日ないし約二週間を要する各傷害を負わせた」などという、強盗致傷、国外移送略取、同移送、監禁の各事実により公訴を提起されたものである。 

ところで、本件においては、公訴事実記載の日時に、A派(「A派」)政治局員Cらによつて公訴事実記載の犯行(「本件ハイジヤツク」)が実行されたことに争いはなく、また、右犯行当時、被告人が同派政治局議長Bとともに別件のいわゆるa事件(爆発物取締罰則違反)などにより警察に身柄を拘束されていて、右の実行行為に加担していないことも明らかであつたため、第一審以来の中心的な争点は、被告人が他の共犯者との間で本件ハイジヤツクに関する共謀共同正犯の刑責を肯定するに足りるような謀議を遂げたと認められるかどうかの点にあつた。

第一審公判において、検察官は、当初、「共謀の日時は、昭和四五年一月七日ころから犯行時までであり、同年三月一五日以降は順次共謀である。」「共謀の場所は豊島区bc丁目d番e号ホテルf、同区bc丁目g番h号喫茶店Gなどである。」と釈明したが(第一回公判)、その後の冒頭陳述(第二回公判)においては、「同年三月一二日より同月一四日までの間に、前記『G』などにおいて」被告人がH、Cらと本件ハイジヤツクについての「具体的謀議」を遂げた旨を主張した。

右冒頭陳述によると、被告人の属するA派の思想的指導者であるHは、同年一月以降、海外における国際根拠地の設定及びそのための要員の国外脱出の手段としてのハイジヤツクを思いつき、被告人を含む同派の者に対し、その計画(いわゆるフエニツクス作戦)を実現するうえで必要な武器調達作戦(いわゆるアンタツチヤブル作戦)及び資金獲得作戦(いわゆるマフイア作戦)などを命じて実行させていたが、同年三月一二日夜にはホテル「f」でiに対し千歳飛行場の調査等を命じ、一三日昼には喫茶店「I」でフエニツクス作戦の参加要員選定のための面接を行つたうえ、被告人に命じて合格者に対する注意事項の伝達をさせるなどしたほか、これと相前後して、一三、一四の両日、喫茶店「G」などにおいて、C、D及び被告人とともに、ハイジヤツクについてその時期、手段、方法、実行行為者などを具体的に協議して決定したというのであり、右は、検察官が、本件ハイジヤツクにつき被告人の刑責を問うために必要な「謀議」の日時を、三月一二日から一四日までの三日間に限局して主張し、争点の明確化を図つたものと理解される。

これに対し、被告人・弁護人は、被告人の右謀議への関与を徹底的に争つた。

そのため、第一審においては、右三日間における被告人及びHらの具体的行動をめぐり、双方の攻撃防禦が尽くされたのであるが、右謀議に関する検察官の立証の中心をなすものは、「三月一三日夜喫茶店『G』において、H、Cらからはじめてハイジヤツクの決意を打ち明けられ、大学ノートに書き込んだメモを見せられて、その具体的方法等に関する説明を受けた。」とする被告人の検察官調書及びほぼこれに照応するHの検察官調書であり、右以外の日及び時間帯の行動に関する証拠の中には、被告人の具体的謀議への関与を端的に窺わせるものが見当らなかつたため、右一三日夜の被告人の行動、とくに被告人が、その自供するように喫茶店「G」における具体的な協議(「第一次協議」)に加わつたのかどうかという点が最大の争点となり、被告人側は、被告人及びHの各検察官調書の任意性、信用性を極力争う一方、右第一次協議が行われたとされる一三日夜のアリバイ(右協議が行われたとされる時間帯に被告人が知人のJ方を訪問しており、同所で旧知のKにも会つたとするもの)に力点を置いた主張・立証を展開した。

第一審裁判所は、本件ハイジヤツクの謀議成立に至る経過として、一二日及び一三日昼の行動の点を含め、おおむね、検察官の主張に副う事実関係を認定したほか、一三日夜の第一次協議に関する被告人のアリバイの主張を排斥し、被告人が「三月一三日および翌一四日、喫茶店『G』等において、」H、C及びDと本件ハイジヤツクの謀議を遂げたものと認めて、被告人に対し「懲役一〇年(未決勾留日数九〇〇日算入)」の有罪判決を言い渡した。なお、検察官も、第五九回公判に行われた論告の際には、「三月一三、一四日の両日、喫茶店『G』など」において、被告人らが具体的謀議を遂げた旨主張するに止まり、一二日の謀議については、これを明示的には主張していない。

右判決に対し、被告人側から控訴を申し立てた。

原審において、被告人側は、第一審に引き続き、三月一三日夜のアリバイを強く主張し、新たな証人や証拠物たる書面によりその立証を補充したところ、原審は、右アリバイの成立を認め、これを否定した第一審判決には事実誤認の違法があるとしたが、同判決の認定した三月一三日夜の第一次協議は、実は一二日夜に喫茶店「G」において行われたもので、被告人もこれに加わつており、さらに、一三日昼及び一四日にも被告人を含めた顔ぶれで右協議の続行が行われていると認められるから、右事実誤認は判決に影響を及ぼすものではないと判示した(ただし、原判決は、被告人側の量刑不当の主張を理由ありと認め、第一審判決を破棄して、被告人に対し、改めて「懲役八年、原審未決勾留日数九〇〇日算入」の刑を言い渡した。)。

なお、原審において、検察官は、本件ハイジヤツクの謀議を自白した被告人及びHの各検察官調書が信用できるとし、一三日夜のアリバイに関する被告人側の証拠の信用性を攻撃したが、第一審判決が謀議の行われた日と認めた三月一三、一四の両日以外の日(たとえば一二日)に謀議が行われた旨の主張は一切しておらず、原審も本件ハイジヤツクに関する第一次協議の行われた日が一三日ではなくて一二日ではなかつたのかという点につき、当事者双方の注意を喚起するような訴訟指揮は行つていない。

 二 しかして、被告人が所属するA派内部において、昭和四五年一月以降、海外における国際根拠地の設定及びそのための派遣要員の国外脱出計画が存在し、その手段としてのハイジヤツクに向けた種々の準備が行われていたこと、被告人が右国外派遣要員の母体とされる「L軍」の隊長という地位にあり、ハイジヤツクを実行するうえで必要な資金や武器の獲得計画に重要な役割を果たしたことなどの点については、証拠上第一審判決の認定をおおむね是認することができるが、他方、A派内部において、国外脱出の手段としてのハイジヤツク計画が現実のものとして具体化してきたのは、三月上旬以降のことであること、被告人は、三月四日から一二日まで京都市に居て、同日夜帰京してきたものであり、帰京以前に、H、Cらと本件ハイジヤツクに関する具体的な話合いをしたことを窺わせる的確な証拠の見当らないことなども、記録上明らかなところである。

そして、前記のような訴訟の経過によると、本件において、当事者双方は、被告人に対し本件ハイジヤツクに関する共同正犯の刑責を負わせることができるかどうかが、一にかかつて、被告人が、京都から帰つた一二日以降逮捕された一五日朝までの間にH、CらA派最高幹部とともに本件ハイジヤツクに関する具体的な謀議を遂げたと認めうるか否かによるとの前提のもとに、右謀議成否の判断にあたつては、証拠上本件ハイジヤツクに関する具体的な話合いが行われたとされている三月一三日の喫茶店「G」における協議(第一次協議)に被告人が加わつていたかどうかの点がとりわけ重要な意味を有するという基本的認識に立つて訴訟を追行したことが明らかであり、一、二審裁判所もまた、これと同一の基本的認識に立つものであると認められる。

ところで、原審は、第一審と異なり、一三日夜喫茶店「G」において第一次協議が行われたとされる時間帯における被告人のアリバイの成立を認めながら、同夜の協議は現実には一二日夜に同喫茶店において行われたもので、被告人もこれに加わつており、さらに、一三日昼、一四日にも被告人を含めた顔ぶれで右協議が続行されているとして、被告人に対し本件ハイジヤツクの共謀共同正犯の成立を肯定したのである。

しかし、三月一二日夜喫茶店「G」及びホテル「f」において被告人がH、Cらと顔を合わせた際に、ごれらの者の間で本件ハイジヤツクに関する謀議が行われたという事実は、第一審の検察官も最終的には主張せず、第一審判決によつても認定されていないのであり、右一二日の謀議が存在したか否かについては、前述のとおり、原審においても検察官が特段の主張・立証を行わず、その結果として被告人・弁護人も何らの防禦活動を行つていないのである。

したがつて、前述のような基本的認識に立つ原審が、第一審判決の認めた一三日夜の第一次協議の存在に疑問をもち、右協議が現実には一二日夜に行われたとの事実を認定しようとするのであれば、少なくとも、一二日夜の謀議の存否の点を控訴審における争点として顕在化させたうえで十分の審理を遂げる必要があをと解されるのであつて、このような措置をとることなく、一三日夜の第一次協議に関する被告人のアリバイの成立を認めながら、率然として、右第一次協議の日を一二日夜であると認めてこれに対する被告人の関与を肯定した原審の訴訟手続は、本件事案の性質、審理の経過等にかんがみると、被告人に対し不意打ちを与え、その防禦権を不当に侵害するものであつて違法であるといわなければならない。

 三 しかしながら、さらに検討すると、記録によれば、A派内部においては、昭和四五年一月以降、海外における国際根拠地の設定の手段としてのハイジヤツク計画(いわゆるフエニツクス作戦)並びにこれを実現するうえで必要な武器調達作戦(いわゆるアンタツチヤブル作戦)及び資金獲得作戦(いわゆるマフイア作戦)が存在し、被告人は、国外派遣要員の母体たる「L軍」の隊長として、武器調達及び資金獲得の両作戦の遂行上重要な役割を果たしていたこと、同年三月九日ころには、CからHに対し、調査委員会で収集した資料等に基づき、旅客機をハイジヤツクして北朝鮮に行く予定であること及び右ハイジヤツク実行の具体的方法等について詳しい説明を行つていることなどの点は、第一審判決が詳細に認定しているとおりであると認められるところ、右事実を前提として三月一二日以降一五日に至る被告人らの行動(とくに、三月一二日夜被告人らとともにホテル「f」に投宿したiが、HないしCに命ぜられて、翌一三日千歳空港へ機内及び空港周辺の状況等の調査に赴き、一四日に帰京してHらにその結果を報告していること、同月一三日午前中、Cに命ぜられた被告人が、実父に対し、国外脱出用の資金三〇万円を無心する手紙を書いていること、同日、Hに依頼された被告人が、Hによる国外派遣要員の面接の直後、その合格者に対しHから指示された注意事項を伝達していること、翌一四日、被告人の示唆によりHの面接を受けたMに対し、Hは、被告人の同室する喫茶店「G」内においてその海外渡航の意思を確認したが、その際、「lの藻屑と消えるかもしれない。」旨ハイジヤツクを暗示するかのような発言をしたこと、同日夜には、被告人はHとともにN方に投宿していることなどの行動。なお、これらの事実は、一、二審判決がほぼ共通して認定しており、証拠上も明らかであると認められる。)、及び被告人らが逮捕されたのち本件ハイジヤツク実行に至るまでのC、Dらの動き(とくに、被告人らが逮捕された三月一五日夜、C、D及びOらがいち早く協議を遂げて、「既定方針どおり、ハイジヤツクを敢行して北朝鮮へ行く。」旨の意思を統一し、翌一六日以降、右の基本方針に従つて本件ハイジヤツクの具体的準備を進め、同月三一日その実行に至つたこと、三月一三日に行われたHの面接に合格し被告人による注意事項の伝達を受けた者は、すべて「L軍」の隊員であり、その全員が右ハイジヤツクの実行に加わつていること。なお、この点に関する第一審判決の認定も、証拠上十分是認することができる。)、さらには、Cらによつて現に実行された本件ハイジヤツクの方法が、HとCとの間で三月九日に話し合われたそれと基本的に同一であり、また、被告人が調達した武器(日本刀)が現に右犯行の用に供せられていること等記録上明らかな諸般の事実を総合すれば、同月一二日に上京してきた被告人においても、逮捕前日の同月一四日までの間に、すでに本件ハイジヤツクの実行に関する具体的な謀議を遂げていたH、Cらのいずれかから、ハイジヤツク計画の具体的方法等について聞かされてこれに賛同し、その実現に向けて自己の役割を遂行していたことを推認するに十分であつて、原判示第一次協議の存否及びこれに対する被告人の出席の有無にかかわりなく、ほぼ検察官の主張及び一、二審判決認定の事実の範囲内で、結局、被告人の謀議への関与を肯定することができるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。 

 

Article 256(1)Prosecution must be instituted by submitting the charging sheet to the court.
(2)The charging sheet must contain:
(i)the name of the accused and other particulars necessary to specify the accused;
(ii)the charged facts;
(iii)the charged offense.
(3)The charged facts must be described with clarified counts. To clarify the counts, the time, place and method of offense must be specified as far as possible.
(4)The charged offense must be described with applicable penal statutes; provided however, that errors in the enumeration of such statutes do not affect the validity of institution of prosecution as long as there is no fear that they may create any substantial disadvantage to the defense of the accused.
(5)Several counts and applicable penal statutes may be entered in a conjunctive or alternative way.
(6)No documents or other articles which may cause the judge to be prejudiced are to be attached or referred to in the charging sheet.