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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

市が獣医師に飼犬又は飼猫の不妊手術を受けさせた市民にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり獣医師を獣医師会支部に所属する者に限定した措置が国家賠償法上違法であるとはいえないとされた事例

 平成7年11月7日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
市が、獣医師に飼犬又は飼猫の不妊手術を受けさせた市民である飼主にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり、その獣医師を獣医師会支部に所属する者に限定した措置は、その趣旨が、犬猫の不妊手術を奨励して野犬や野良猫の発生を防止することにあり、不妊手術を受けさせた飼主や不妊手術をする獣医師を保護するためではないこと、獣医師会は任意加入の公益社団法人であり、それに加入してその各種制約の下に営業するか、加入しないで営業するかは、基本的には各獣医師個人の自由意思にゆだねられていることなど判示の事実関係の下では、直ちに同支部に所属しない獣医師の営業上の利益を侵害するものとして国家賠償法上違法になるとはいえない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/120/076120_hanrei.pdf

 

本件は、被上告人が、野犬及び野良猫の発生を防止するための施策の一つとして、本件要綱によって、獣医師に飼犬、飼猫の不妊手術を受けさせた町田市民である飼主にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり、その獣医師をD獣医師会町田支部に所属する獣医師に限定したところ、上告人らが、右の措置は町田市内に診療施設を有しながら同支部に所属しない上告人ら獣医師を不当に差別するもので、その営業の自由を侵害する違憲・違法なものであるなどとして、被上告人に対し、国家賠償法一条に基づいて慰謝料と遅延損害金の支払を求めるものである。

原審の適法に確定した事実関係の下において、同支部の規模、同支部に加入していない獣医師の数、右補助金交付の手続等に照らすと、右の措置は、被上告人における行政効率の点で必ずしもその必要性が高いとはいえず、右の獣医師と競業関係に立つ上告人らの営業上の利益に対する十分な配慮をした形跡がない点において、その手続面も含めて、行政上の措置として適切であったとはいい難いうらみがある。

しかしながら、右補助金を交付する趣旨は犬猫の不妊手術を奨励して野犬や野良猫の発生を防止することにあり、不妊手術を受けさせた飼主や不妊手術をする獣医師を保護するためではなく、また被上告人の右措置によって同支部に所属しない獣医師に生じ得る営業上の不利益は直接的なものではなく、これに所属する獣医師との競業関係による波及的な効果である。

そして、獣医師会は任意加入の公益社団法人であり、これに加入して会費を納入するとともに獣医師会の各種制約の下に営業するか、加入しないで営業するかは、基本的には各獣医師個人の自由意思に委ねられているものである(上告人らにおいて、同支部への加入が不当に制限されているため同支部に所属する獣医師と同様の利益を受けることができないというのであれば、獣医師会との間でその点を問題にすべきである。)。

これらの点を考慮すると、本件要綱によって同支部に所属しない獣医師に飼犬、飼猫の不妊手術を受けさせた飼主を補助金交付の対象から除外したことが、直ちに上告人らを含む右の獣医師の営業上の利益を侵害するとして国家賠償法上違法になるとは認め難いというべきである。

原審の判断は、以上と同趣旨をいうものとして是認し得ないではなく、その過程にも所論の違法は認められず、右違法を前提とする所論違憲の主張は失当である。

 

Summary of the Judgment
When the city provides a subsidy equivalent to a portion of the surgical fee to pet owners who have had their dogs or cats undergo sterilization procedures by veterinarians, the measure that restricts eligible veterinarians to those belonging to the Veterinary Association branch is based on the purpose of promoting sterilization of dogs and cats to prevent the emergence of stray dogs and cats. It's not for the protection of pet owners who get the sterilization or the veterinarians who perform the procedure. Since the Veterinary Association is a voluntary membership public interest incorporated association, whether to join it and operate under its various restrictions, or not to join and operate, is fundamentally left to the free will of each individual veterinarian. Given these facts, it cannot be said that this measure immediately infringes upon the business interests of veterinarians who do not belong to the said branch, making it illegal under the State Compensation Law.

 

弁護士中山知行