消費税更正処分等取消請求事件
令和5年3月6日最高裁判所第一小法廷判決
判示事項
事業者が消費税等の確定申告において課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除したことにつき国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできないとされた事例
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/826/091826_hanrei.pdf
1 本件は、不動産の買取再販売等を行う株式会社である被上告人が、平成25年1月1日から同年12月31日まで、同26年1月1日から同年12月31日まで及び同27年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(「本件各課税期間」)において、転売目的で、全部又は一部が住宅として賃貸されている建物の購入(「本件各課税仕入れ」)をし、これに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除して消費税及び地方消費税(「消費税等」)の確定申告(「本件各申告」)をするなどしたところ、日本橋税務署長から、その全額を控除することはできないとして更正処分(「本件各更正処分」)及び過少申告加算税の賦課決定処分(「本件各賦課決定処分」)を受けるなどしたことから、上告人を相手に、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消し等を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
消費税法(平成26年3月31日以前に行った課税仕入れについては同24年法律第68号2条による改正前のもの、同26年4月1日から同27年9月30日までに行った課税仕入れについては同年法律第9号による改正前のもの、同年10月1日以降にした課税仕入れについては同24年法律第68号3条による改正前のもの。以下同じ。)30条1項1号は、事業者が国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨を規定する。同条2項1号は、当該課税期間における課税売上高が5億円を超える場合又は当該課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない場合において、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(「課税対応課税仕入れ」)、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(「その他の資産の譲渡等」)にのみ要するもの(「非課税対応課税仕入れ」)及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(「共通対応課税仕入れ」)の区分(「用途区分」)が明らかにされているときは、控除する課税仕入れに係る消費税額(「控除対象仕入税額」)は、同条1項の規定にかかわらず、課税対応課税仕入れに係る消費税額に、共通対応課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する方法(「個別対応方式」)により計算した金額とする旨を規定する。
被上告人は、本件各課税期間において、事業として、転売目的で、全部又は一部が住宅として賃貸されている建物合計344物件(「本件各建物」)を購入した(本件各課税仕入れ)。
被上告人は、本件各課税期間の消費税等について、個別対応方式により、本件各課税仕入れが課税対応課税仕入れに区分されることを前提に、本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を控除対象仕入税額として本件各申告をした。これに対し、日本橋税務署長は、平成29年7月31日付けで、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である住宅の貸付けにも要するものであるから、共通対応課税仕入れに区分されるべきであり、控除対象仕入税額は、上記消費税額の全額ではなく、これに課税売上割合を乗じて計算した金額となるなどとして、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分をした。
平成元年に作成された税務当局の部内資料等には、課税対応課税仕入れとは「直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期の前後を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である」との記載や、土地の賃貸収入がある場合でも分譲用のマンションの建設計画に基づいて土地の所有権を取得していることが明らかであるときは取得の際に支払った仲介手数料は課税対応課税仕入れに該当する旨の記載があり、同年に発行された税務当局関係者が編者である公刊物等には、販売の目的で取得した土地の造成費は一時的に自社の資材置場として使用しているとしても非課税対応課税仕入れになる旨の記載がある。また、税務当局は、平成7年頃、関係機関からの照会に対し、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し、将来的には全て分譲することとしている住宅の購入については、課税対応課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない旨の回答をし、同9年頃、関係機関からの照会に対し、賃借人が居住している状態でマンションを購入した場合でも、転売目的で購入したことが明らかであれば、課税対応課税仕入れに該当する旨の回答をした。
他方、平成17年以降、税務当局の職員が執筆した公刊物等において、事業者の最終的な目的は中古マンションの転売であっても、転売までの間に非課税売上げである家賃が発生する場合には、中古マンションの購入は共通対応課税仕入れに該当する旨の見解が示され、また、本件各申告当時に公表されていた複数の国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例において、本件各課税仕入れと同様の建物の取得の用途区分につき、上記と同様の見解に基づく税務当局側の主張が採用されていた。
3 原審は、上記事実関係等の下において、本件各建物は転売まで住宅として賃貸されることが見込まれていたから、本件各課税仕入れは、個別対応方式による用途区分において共通対応課税仕入れに区分されるべきであり、本件各更正処分は適法であるなどとした上で、要旨次のとおり判断し、本件各賦課決定処分は違法であるとして、その取消請求を認容した。
税務当局は、平成元年当時、主たる目的又は最終的な使用目的を考慮して用途区分を判定していたとも理解され得るところ、同9年頃、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを転売目的に着目して課税対応課税仕入れに区分したことがあり、その後、同17年頃までに上記の見解を変更したことがうかがわれるから、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するよう必要な措置を講ずるのが相当であったのに、そのような措置を講じているとは認められない。このような税務当局の対応や、これを根拠とする紛争が継続している事情の下では、本件各申告において、被上告人が、転売を目的とする本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分した上で控除対象仕入税額の計算をしたことには、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)65条4項にいう「正当な理由」がある。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに過少申告による納税義務違反の発生を防止して適正な申告納税の実現を図るという過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決)。
前記事実関係等によれば、税務当局は、遅くとも平成17年以降、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されること(その他の資産の譲渡等に対応すること)に着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは、本件各申告当時、税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得たものということができる。
他方、それ以前に税務当局が作成した部内資料や税務当局関係者が編者である公刊物及び平成7年頃の関係機関からの照会に対する回答には、事業者の目的に着目して用途区分を判定していたとも理解され得る記載等があるものの、これらは、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れに直接言及するものでなく、その趣旨や前提となる事実関係が明らかでないなど、必ずしも上記見解と矛盾するものとはいえない。
また、税務当局は、平成9年頃、関係機関からの照会に対し、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分すべき旨の回答をしているが、このことから、直ちに、税務当局が一般的に当該課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分する取扱いをしていたものということはできないし、上記回答が公表されるなどしたとの事情もうかがわれない。
そうすると、平成17年以降、税務当局が、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分する取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、上記取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであったということができる。
そして、上記取扱いは消費税法30条2項1号の文理等に照らして自然であるといえ、本件各申告当時、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分すべきものとした裁判例等があったともうかがわれないこと等をも考慮すれば、被上告人が本件各申告において本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分して控除対象仕入税額の計算をしたことにつき、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるということはできない。
以上によれば、本件各申告において、被上告人が本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除したことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。
5 以上と異なる原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件各賦課決定処分の取消請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、同部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。